デンマークの旅 Landsstævne デンマーク体操祭に参加して デンマーク体操クラブ・アンセルチームリーダー 古川 幸子
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・大会、旅のあらまし 「デンマーク体操クラブ・アンセル(体操ひろば第14号参照)は4年に一度開催される体操祭(6/26〜6/30)に2度の参加をしてきました。今回はバルト海に浮かぶBornholm島での大会で、交通が不便なことや小さい島での開催ということで、参加者は前回の半分の20,000人とのことでした。この大会は体操だけでなく、各種スポーツの祭典で、体操に参加する人は大会参加者総数の約1/2で、一度に大勢が移動できないため、開会式の前日から催しが始まり、閉会式の後も1日発表がありました。私たちは開会式に間に合うように行き、最後の1日のも発表をしてコペンハーゲンに戻り、観光をして、一部の人は帰国。数人が新たに加わり、「椅子体操グループ」と交流したり、Ollerup体操学校で発表の練習をしたり、Viborgの体操連盟「Krop og kultur(からだと文化)」のメンバーの家でホームステイし、懐かしい友に再会しました。Viborgの歴史や自然に触れ、Viborg体操学校では体操交流会をしました。これらも私たちの旅の目的の一つでした。旅の計画から大会主催者側との連絡、ホテル、バスなどの手配を全て私の恩師であるKis先生を中心に「Krop og kultur」のメンバーにしていただき、私達もいろいろグループに分かれて、実務を皆でこなしてとてもよい協力体制で想い出に残る良い旅になりました。 ・大会の様子 前回はデンマークユトランド中央体操協会の招待チームとしての参加でしたが、今回はISCA(Inteernational Sport and Culture Associatin)の日本からの唯一加盟チームとしての参加で、ノルウェー、アイスランド、ブラジル、フランスのチームと共に大きなセンタースタジアムで発表をしてきました。アンセルは18〜74歳男女混合チーム 総勢44名で、参加者のレベルにあった、みんなで楽しめる体操を発表しました。デンマークで培われてた体操を見ることが出来ると評価され、新聞に大きく取り上げられ、成果を実感しました。大会中は参加者にとっては結構忙しく、ことに今回は、インターナショナルチームとしての合同練習や、歓迎レセプションなどがあり、ほとんど他チームの発表を見ることが出来ませんでした。体操の発表会場はセンターステージの他に町の中と隣町の海辺の特設会場の3ヶ所でした。宿泊は海辺の特設会場のすぐ近くのデンマークでも有名な鰊の薫製工場の裏手にあるユースホステルで、朝食はそこで頂き、昼食は会場で用意された食事、夜は各自で取りました。期間中、例年になく天候が悪く、午前中は雷が鳴り、雨風がひどく、午後になると日が射すという毎日でとても寒く、いくら日が長いからといっても、夜9時からの閉会式は寒く、芝生にじっと座っていること、用意された食事は冷たいものばかりで、長い行列の末に手に出来るものは、ソーセージかハンバーグとビールかジュース、というのには閉口しました。ある限りの洋服を重ね着し、温かいお風呂に入りたいと思ったのは私だけではないはず、けれども、風邪を引く人もなく、私達のセンタースタジアムでの発表の時は、日が射すほどの天候に恵まれ、幸運でした。 ・雑感 いつも感じることですが、デンマークの観客はとても発表に対して肯定的で、拍手、手拍子、歓声が演技するものにとって大きなエネルギーになっていると思います。バケツをひっくり返したような雨の中でも演技が続けられ、手拍子は更に大きくなり、会場が一つなっていく様子は言葉にしがたい感動があります。体操の発表は、演技者のレベルにあったもので、演技者が楽しんででき、会場が一つになれたら成功かなと思っていたので、今回は拍子に手拍子がもらえる曲(特に退場の曲)を注文し、大成功でした。デンマーク人が発表に対して肯定的なのは良いのですが、本当に体操を見る目が養われているかというと?ですが・・・。今回も「デンマーク世界チーム」の解散発表が大会中ありました。男子は良かったのですが、女子は与えられた演技を懸命にこなしていたにもかかわらず、男子の休憩の為の演技のようで、残念でした。そして、近年盛んに取り入れられているショー的なプログラムは一つを除いて、特に日本の様子を発表したつもりであろう演技には腹立たしささえ感じました。意味のある洗練された演技を通して楽しめるものでなければ、ただの笑いものになってしまい、体操の発表のレベルを下げるだけになってしまいます。このことはデンマークの体操関係者の数人とも話をし、意気投合したことです。最後に拍手喝采で発表が終わったこと、一般の人は、「テレビで見たけれど、素晴らしかったわね」と感想を述べていたことを、疑う余地はありません。 ・デンマーク体操・学校の事情 私はチームとの旅の後、2ヶ月おいてViborg体操学校の卒業25周年で、同窓会に参加するために再度2週間デンマークを訪れました。その際、いろいろなところで若い人達のトレーニングを見たり、Kis先生の指導に参加したり、体操関係の友人と体操のことを話したりする機会が多くありました。とにかく、デンマークの体操人口の層の厚さを再確認しました。きちんと世代交代がされ、私の同期の友人が好調に納まり、若いインストラクターが育っているにです。小さい時からしている人は、両親が若いときエリートであったり、体操家族であったり、そうでない人も、体操の発表は春から夏にかけて、どこの地域でもやっていて、見る機会があり、どこへ行けば、どんな体操が出来るかを知るチャンスが多く、地域の体操チームに若者が絶えず参加し、人気のある人のトレーニングには、テストを受けて多方面から集まってくるし、実力のある先生のいる学校には、各方面から生徒が集まってきます。実力のある指導者はいろいろな発想力があるというのは勿論ですし、若い人でいえば、指導者自身の体操(ダンス?)のレベルが高く、指導者の年齢に関係なく、うごきのプロセスをきちんと指導でき、高齢者には、その動作をする意味やコツなどを指導できる人だと感じました。例えば、男女ペアの作品を作り上げるプロセスを見学したのですが、まずは押し合って、体重のかけ方・引っ張り方・跳ね返し方など、とても簡単なことから、丁寧に指導していきます。そういうリーダーのための講習会も週末を使って、至るところで開催され、そのリーダーも自信を持ち、オープンなので、良いものや新しいものが広がりやすい環境にあります。そして、習ったものを、直ぐ自分のものにするアレンジ力の強いのも、デンマーク人の能力でしょう。 日本人がよく留学するHøjskole(国民高等学校18歳以上 コース制)は、現在、国の補助金が大幅にカットされ、デンマーク人にとっては費用がかかるようになり、その上、資格取得のための教育システムでないために、人気が落ちていて、生徒数がとても少なくなっていて残念です。少なくとも、25年前は、例えばHøjskoleに行ったとか、外で働いた経験があるとかがポイントとなって加算され、教師になるための必要条件でしたが、今はそのポイント制は無くなっているそうです。デンマークでは、若い人達が早くから税金を納められる社会人になるように、中学3年に当たる学年をカットしようという動きが始まりつつあります。勿論、学校関係者は猛反対です。 デンマークでも、現在、小学校に当たるBørnskoleでは、体操はほとんどありませんが、中学2、3年に当たるEfterskoleでは盛んに行われ、体操祭でも40校合同チームで2,300人の発表があり、大会のメインになっています。優秀な学校では、この年齢で、既に、跳び箱に7人同時に並んで倒立する演技(昔から男子のエリートが発表している)が出来るのです。その学年を無くしてしまったら、デンマークの若い人達の体操は、どこに行ってしまうのでしょう。地域かつそうが盛んといっても、学校で思い切り体操が出来る環境は、EfterskoleとHojskoleの他にはありません。このEfterskoleは私立で、全寮制(在籍年数1年)、国からの補助効率高等学校と同じにあり、学校卒業資格取得のための試験もあります。 長い歴史のあるEfterskoleがそう簡単に無くならないことを願うばかりです。 ちなみに、Viborgの体操・スポーツ国民高等学校では、日本人の生徒に来て欲しいと言っていました。興味のある方はご連絡ください。(Olelupについても) アンセルホームページ |