しらぬひ 筑紫の綿は 身に付けて いまだは着ねど 暖けく見ゆ (巻三・三三六) 沙弥 満誓 「しらぬひ」は「筑紫」 の枕詞。
【鑑賞】 筑紫産の真綿は、まだ肌身につけて着てみたことはないけれど、 いかにも暖かそうだ。 沙弥満誓は養老七年(七二三年)、観世音寺の造営の遅れを取り戻すため、 その手腕をかわれて別当(長官)として京から赴任した。 この歌は沙弥満誓の意気込みの表れともとれよう。 満誓は大伴旅人とも交遊があったようである。 蚕の繭の真綿は当時、筑紫の特産品として有名で、毎年多くの真綿が 大宰府から平城の京に献上されていた。