スターリンク対スワォーム

夜空を一列になって進む光の球。その模様はまるで往年の人気「銀河鉄道999」のワンシーンのようだ。
その謎の発光体は、アメリカの企業「スペースX」社がうちあげた人工衛星群である。
運がよければ、肉眼でみることができるので、SNSなどではその美しさに感動したという声があがっている。
しかし感動ばかりはしておれない。特攻基地があった福岡県大刀洗町で戦時中、基地の営門前で美容室を営んでいた女性の話を思い出した。
「1945年のこと、B29の機体が空に現れた時、そのきらきら光る機体がとても美しかった」と。
「スペースX」は、テスラのトップも務め、ツイッター買収で有名な実業家イーロン・マスクが作った会社である。
スターリンク衛星が打ち上げ後に列をなして進む様子は、「スターリンクトレイン」ともよばれる。
「スターリンク (Starlink)」 は、低コスト・高性能な衛星バスと地上の送受信機により、衛星インターネットアクセスサービスを提供している。
これによって、地球上のほぼ全地域に衛星インターネットアクセスが可能となった。
スターリンクの難点をあげれば、他のインターネットに比べて価格が高く、アンテナの置き場所によっては繋がりにくいという点である。
その名が広く知られたのは、アメリカ国防総省が、ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナを支援するため「スターリンク」と契約したニュースによる。
地上550km~1150kmに三層にわけて打ち上げられた、現在1万にも迫る小型(1.1m×0.7m×0.7mでボックス型)の人工衛星群である。
「スターリンク」は、こうした衛星から電波を拾うことでインターネットが使える仕組みで、高速インターネット接続サービス「スターリンク」が実現した。
これだけの数の衛星を打ち上げるのは、いかにもコストがかかりそうだが、1回のロケット打ち上げに、50~60個ほどの人工衛星がまとめて打ち上げられ、宇宙空間で、それらは解放・展開するという。
その様子が、「スターリンクトレイン」と呼ばれていて、打ち上げられた直後数日間だけ見ることができる現象である。
サービスエリアの拡大に向け、衛星の打ち上げは、月に4、5回のペースで行われている。
衛星インターネットサービスによって世界人口のほとんどをカバーすることが技術的に可能となるが、実際にサービスが提供されるのはスペースXがサービス提供のライセンスを取得した国に限られる。
2022年末現在で、45カ国でサービスを提供している。
スターリンクトレインは、夜空を流れることで、天体観測の邪魔になるという声が、天文学者などから上がっている。
かつて小説家の遠藤周作が「占い」をして当たらなかったので、占い師に文句をいうと、最近では人工衛星のせいであたらないと答えたという話を思い出した。
「スペースX」こうした声を受け、スターリンクは衛星を黒塗りにしたり、太陽光の反射を弱くする工夫を行なっている。
そのため打ち上げ開始当初より光は弱まったが、依然として肉眼でも見える状況は続いている。
ウクライナ軍が偵察用の無人機などでロシア軍の位置情報を収集し、攻撃する際に利用するなど、重要な役割を果たしている。
スターリンクが提供する高速ネット回線をを介し、戦車や装甲車、ドローン(無人機)などが敵情報を共有しながら、ロシアの侵略と戦っていると伝えらえる。
かたやロシア軍は、衛星からの位置情報を妨害電波で攪乱する手法を用いて対抗する。
遡れば、1991年の湾岸戦争では、兵員の損失を抑え、しかも民間人の巻き添えを最小限にできるという触れ込みで、精密誘導兵器での「ピンポイント爆撃」が多用されるようになった。
戦争の態様は、戦場から遠く離れて遠隔する、まるでゲームのような感覚で行われるようになったことを記憶している。
歴史を顧みれば、兵器は人間同士が相対せずとも遠方から攻撃できるカタチで発達してきたといえる。
現在進行中のウクライナの戦争ではその特徴が顕著に表れている。
そしてAIを兵器に使うようになれば、人間に委ねられていた意思決定の速度は格段に高まる。
もしも、AI兵器が自律的に判断することとなれば、人間はもはや「遠隔操作」する必要さえなくなる。
そういう意味でAIは、火薬・核兵器に続く「第三の軍事革命」といわれる所以である。
自軍兵士の危険が軽減され、人的ミスが減って民間人被害も回避できるとの理由から、「人道的」という評価さえある。
しかし、懸念されるのは情報の収集や判断が人の手をはなれることで、責任の所在が分からなくなること。
誰も責任を負わなくなれば、戦闘のエスカレートを防ぐ歯止めが失われることを意味する。
また「誤認知」の危険性がつきまとう。まるで人間が書いたかのような文章や、本物と見分けがつかないニセ画像も簡単に作られる。
戦時と平時の境目はあいまいで、平時でもサイバー攻撃でインフラ攻撃が可能になり、他国の選挙における世論誘導さえも行われる。

2022年7月23日の東京五輪開幕式に使われた巨大球体は、1824台の「ドローンによる光の演出」は、アメリカのインテルl社の「Shooting Star」システムによるものである。
こうした技術を「スウォーム」とよべれ、「スウォーム」は「群れ」を意味している。
ドローンのスウォームの民間開発は、「デュアル・ユース技術」であることを示している。
ここ数年、ドローンの能力に対する需要は高まっており、企業は数百、時には数千の小型無人航空機システム(sUAS)をプログラムして、振り付けをしたディスプレイを行っている。
例えば、インテル社は2018年に2066機のドローンを1回の展示に投入し、最大数の世界記録を樹立した。
そしてインテルの特定モデルのドローンは、2018年の冬季オリンピックや2017年のスーパー・ボウルのハーフタイム・ショーなど、数多くのイベントで飛行した。
日本でも複数のドローンを使った「ハイテク法要」が話題を呼んでいる。
福井県の照恩寺の住職・朝倉行宣によるもので、朝倉という姓からも推測できるとうり、この寺は1465年に一乗谷にでき、1584年に現在の場所に移築されたという長い歴史を持ち、朝倉は17代目の住職である。
京都の龍岸寺において開催された「テクノ法要」のハイライトは、ドローンに仏像をのせた「ドローン仏」の飛来である。
つまり、小さなドローンに乗っかった仏が法要にやってきた人々の頭上近くに飛来して、それに対して手をあわせるというもの。
「ドローン仏」の作者は三浦耀山(みうらようざん)という仏師。
三浦は1973年埼玉県生まれで、早稲田大学政治経済学部卒業後、一旦は一般企業に就職。
そこから滋賀県の大仏師戸邊勢山に弟子入りした。
13年間の修行の末、耀山の雅号を得て独立。京都で仏像の製作や修復をしている。
仏師三浦耀山がドローン仏を造った理由とは、阿弥陀如来が雲に乗ってこの世に光臨する様子を再現するためだという。
当初木製の仏像でテストしたところ重すぎてドローンが離陸できないという事態に!それから2年間試行錯誤をかさねて木製の仏像を3Dプリンターで作製、樹脂製で中を空洞にすることで8gという軽量化に成功した。
最終目標は来迎図を再現するために阿弥陀如来像にプラス25体の菩薩像製作が目標。
来迎は観無量寿経で説かれる阿弥陀四十八願の一つで、浄土信仰をもつ衆生(しゅじょう)が死に際して阿弥陀如来の来迎引接を受けること。
京都国立博物館「阿弥陀二十五菩薩来迎図」がある。
高野山には最高傑作「高野山聖衆来迎図」がある。
ただ、この技術はドローンを遠隔操作でコントロールするやや古典的な技術である。
東京オリンピックで使われた「Shooting Star」システムはGPSとRTKで位置決めを行うプログラム飛行で、事前に飛行パターンと発光パターンを入力して飛ばす方式で、人の手による遠隔操縦は行わずに、ドローン自身の自己判断能力もない。
RTK(Real Time Kinematic)とは衛星測位システムのGPSを補助して精度を高める装置で、地上に基準局を設置してGPSの誤差を検出して補正した情報をドローンに送る。
これにより精度がセンチメートル単位まで向上し、密集飛行させることが可能になった。
このため、ドローンはRTKの基準局がある付近でしか密集飛行はできず、軍事用途には全く不向きである。

「マスゲーム」といえば、北朝鮮であるが、最近中国ではドローンにマスゲームをさせるデモンストレーションを行っている。
位置を移動したり光を点滅させて、ある模様から瞬時に別の模様に切り替えることができる。 ひとつひとつがドローンが発する光で、まるで打ち上げ花火のように動かすことができる。
まるで夜空全体がキャンパスになったかのようだ。
この技術を「スウォームロボティクス」といい、「群知能」をもとに群ロボットを生物のように分散制御することができる。
ドローン同士が互いの位置関係を把握しあい、衝突することなくプログラム通りに一糸みだれずに動くことができる。
ただ、これまでのドローンは人間がコントローラーで操作することが前提であったが、スウォームを搭載したドローンは自身のAIで状況判断し行動できるようになる。
中国で進展している「ドローン・スウォーム」とは群れの仲間同士で「連携」を行いながら戦う、各ドローンが自己判断で自律戦闘を行う「徘徊型兵器」であり、さらに兵器システムのことをいう。
進化した人工知能(AI)と優秀なセンサー、僚機との通信ネットワーク能力。群れ全体で得た索敵情報を統括し、目標付近の仲間に攻撃を指示し、遠くの仲間を呼び集め、群れ全体が一つの生き物のように考えながら行動する未来の兵器である。
戦場に投入された場合は革命的な変化をもたらすことになる。
細かい識別をしなくてよいというなら今直ぐ作れますが、不用意に戦場に投入した場合には「戦争犯罪」としか呼べない結果を招いてしまう。
しかし自律戦闘型ドローンは敵と味方と非戦闘員を識別して戦闘を行うには高度な人工知能を完成させる必要があるので、実用化はまだ当分先の話になる。
国連安全保障理事会の専門家パネルは2021年3月に「リビアで自律型致死兵器システム(LAWS)の自律戦闘型ドローンが使用された可能性がある」という報告書を提出した。
国連専門家パネルはトルコ製攻撃型ドローン「カルグ2(Kargu-2)」に自律戦闘能力があるという疑いを掛けている。
製造元のSTM社がカルグ2には自律戦闘能力があると自称していたからである。
カルグ2に敵と味方と非戦闘員を識別して戦闘を行う高度な人工知能があるようには思えません。
なにしろ自律戦闘兵器は超大国アメリカですらまだ実用化できていない兵器システムである。
おそらくカルグ2は細かい識別は行えない原始的な無差別攻撃兵器で、事前偵察で敵しか居ないと確信できた範囲のみを飛行するように設定されて送り込まれる運用ではないかと考えられている。
そもそも何故、これほどまでに近年の戦場でドローンが大活躍し、ありとあらゆるタイプが開発されているのか。そして何故、テロリストがドローンを使った空爆を敢行でき、米軍やロシア軍のような大軍がその対応に苦慮しているのか。
その意味するところは何なのか。
これらは全て、ドローンが「新しい戦闘空間」を切り開いたから起きていることに他ならない。
聖書の預言者にはそれが「いなご」や「さそり」にも見えたりしたのかもしれない。
ドローンの登場によって生み出された新しい戦闘空間は、現状では独占的にドローンが占有し、しかも対応する兵器システムはまだ試行錯誤の段階にあるのだ。
それはサイバー空間、宇宙空間に続く、「空地中間領域」とでも名付けるべき、第三の新しい戦闘空間の登場である。この高度15~150mという地上と空中の中間にある「中途半端な空間」もまた、これまで恒常的な軍事利用はなかった。
その空間の争奪戦を、中東のテロ組織から米中軍までのありとあらゆる軍事組織が繰り広げているのが現在の状況である。
こうした新しい戦闘空間で優位を確立しようとしている国家の雄が、中国である。
中国のDJI社は個人向けドローンの世界シェア7割を握っている。
2017年6月には119機ものドローンの制御に成功し、世界記録(当時)を確立した。
また2018年6月には、南シナ海で50機による最大規模の実験にも成功している。
サイバー攻撃も深刻な問題だ。14年には米海洋大気局のシステムが中国からのサイバー攻撃を受けて故障し、衛星からのデータを一時受信できなくなった。
このシステムは世界の気象や海洋の観測データを集め、米軍にも提供している。
仮に戦争が起きた場合、こうした目に見えない攻撃が行われる可能性が高い。もし衛星の制御システムがサイバー攻撃を受けたら、全衛星が使えなくなる恐れがある。
ウクライナ軍は2022年10月29日にロシア海軍の黒海艦隊に対し、海戦史上の画期となる軍事革命を象徴する攻撃を行った。
攻撃を受けたロシア国防省の発表によれば、8機のドローンと7隻の自爆水上ドローン(以下、自爆USV)がセヴァストポリ港を本拠とする黒海艦隊に空と海からの対艦攻撃を仕掛けたという。
攻撃をしたウクライナ側もUSVからの映像と共に攻撃を発表した。
これは人類史上初のドローンによる「対艦スウォーム攻撃」であり、航空機が戦艦を初めて撃沈したタラント空襲(1940年)や日本海軍による真珠湾攻撃(1941年)に匹敵する軍事革命になりそうな見込み。
高度なものを作れば作るほど、人間はリアルに一度は使ってみたくなる性分をもつのではなかろうか。
この自爆USVとは、どんな技術が使用されたのか、そのヒントになるのがセヴァストポリに漂着し、ロシア軍に回収された謎のUSVであった。
この謎のUSVは、衛星通信用の「スターリンクアンテナ」と思しきものを装備し、胴体中央に潜望鏡のようなカメラと船首に爆薬を積載した偵察や自爆、それにおそらくは通信の中継も可能なタイプと目されており、ドローンの高い汎用性を象徴する機体だ。
最高速度は時速110キロメートルと目されている。
ドローンはコストが安い割に高い効果を得られる。しかも、誘導弾など高コストの武器で対処すると、安い兵器を使って負荷をかけることを狙っている相手の思うつぼにはまってしまう。
今後は、多数のドローンの飛行を制御して目標に向かわせる「スウォーム攻撃」が大きな脅威になるとみられている。こうした攻撃に備え、何ができるのか。
低いコストでドローン攻撃に対処できると注目されているのが、高出力レーザーでドローンを撃墜するシステムである。
1発当たり数十~数百円レベルの電気代で済み、数秒から数十秒に1発は撃て、弾切れ”の心配がない。
アメリカの「スターリンク」と中国優位の「スウォーム」、官民あげての戦いとなっている。