以前TVで、韓国に真夏に「冷風」を噴出す岩場が紹介されていた。冬の間に閉じ込められた冷たい空気が、夏になると解き放たれるらしい。
いわば「天然の冷房機」で、自然の幾つかの条件が重なる偶然のなせるわざで、その自然の恵みおよび不思議を求めて、多くの人々がその岩場に集まるという。
そのメカニズムの解明はいまだなされていないが、少なくとも長期間「冷気」を閉じ込める仕組みと、それが解き放たれるメカニズムがポイントである。
しかし自然は、「天然冷房機」など驚くに値しないくらい絶妙なもの生み出している。
今から50年ほど前に「天然の原子炉」が発見されたのだ。驚くべきことに、16基も。
そして、そうした「天然原子炉」が存在しうることを57年も前に予言していた日本人がいた。
1956年、アメリカ・アンンカーソン州立大学の核地球化学者・黒田和夫は、一定の自然条件のもとで「天然原子炉」が存在しうることをはじめて提唱した。
黒田教授によれば、その自然条件とは「古い鉱床」の存在、「高濃度ウラン」の大きな塊りの存在、中性子を吸収しやすい元素が少ない「恒常的な水」の存在の三つが絶対的条件である。
そして黒田教授は世界初の原子炉をつくったフェルミの中性子の四因子公式を「ウラン鉱床」に適用して、どうしたらそういう条件が満たされるかを計算した上で、「天然原子炉」の可能性を予言したのである。
そして1972年に、実際に「天然原子炉」がアフリカで発見され、黒田教授の予言の正しさが立証されたのである。
「天然原子炉」が発見されたきっかけは、フランスのウラン濃縮工場に搬入された鉱石の中に、ウラン235の割合が異常に低いものが発見されたことによる。
実は天然ウランに含まれる、「ウラン235」と「ウラン238」の割合はどこで採取しても同じだという。
つまり自然界ではウラン235の割合は安定しているのだが、その鉱石は何らか異常が加わっていたことが推測された。
フランスは1972年、国家予算を削りガボンでのウラン鉱山の探掘を中止してまで、この事実の解明に力をいれた。
そしてこの「異常な鉱石」の追跡調査により、アフリカ大陸の赤道直下にあるガボン共和国オクロ地方の「ウラン鉱床」で、過去に自然に「核分裂の連鎖反応」が起こっていたことが判明したのである。
つまり、「天然冷房機」どころではなく、「天然原子炉」の存在が明らかにされたのだ。
そしてその調査がすすむにつれ、今から20億年もまえに、アフリカの地下深く、偶然の自然条件の重なりが、地下深くで核分裂を促進していた。
岩石の風化で堆積したウラン鉱床と水との絶妙な組み合わせが今日の軽水炉と同じ様な「臨界状態」を生み出していたという。
当時の新聞で「自然は世界最初の原子炉をつくりだした」として発表された。
そして化石化した「天然の原子炉」がなんと16基も存在し、制御棒もなく100万年もの間、安全にして安定的に動いていたことがわかったのである。
ではどうして、制御棒もなく安全に運転できたかというと、水の役割が大きいという。
岩の裂け目に水が染み込んで、水が「減速材」の役割を果たし、連鎖反応を起こしやすくしていたのだ。
核分裂の連鎖反応が大きく、反応熱が大きくなり過ぎると水は蒸気となる。
そうすると中性子の「減速」が悪くなり、核分裂がおこりにくくなる。
その結果熱の発生は小さくなり、蒸気は冷えて水に戻り、再び核分裂が活発化するといったことを繰り返す。
結局、制御棒ではなく水の「密度変化」で出力を調整していたのである。
その運行は10万年から100万年の間続き、ウラン235が核分裂の結果減少し、ついには停止したのだという。
しかし、さすがに燃料交換まではしなかったものの、自然の連鎖反応が終わった後に、生まれてきた「放射性物質」を地下深くに、効果的に閉じこめていたという。
最近、千葉で地球の南北の磁場が逆転した痕跡が見つかり、地質年代として「チバニアン」と命名される可能性がでている。
地質年代の話題といえば数年前に、自然界が生んだ「世界一精密な時計」が、福井県・若狭湾近くにある三方五湖の一つで水深34メートルの「水月湖」にあることがわかった。
ここで「精密な時計」とは、水月湖の湖底堆積物がつくる「年縞(ねんこう)」を指している。
「年稿」は湖の底に積もった土の層がつくる「縞(しま)模様」をいう。
毎年、湖の底に春から夏はプランクトンの死骸が積もって白い層ができ、秋から冬は粘土鉱物が堆積して黒い層になる。この白と黒の「縞模様」が一つの組み合わせで1年を表す。
「年縞」は、ドイツやベネズエラ、国内では鳥取や滋賀、秋田県の湖沼などで見つかっているものの、「水月湖」のものは、それらのものよりはるかに長く精度が高いのだという。
これまで海底堆積物やサンゴ礁、洞窟の鍾乳石のデータが総合的に使われ、樹木の年輪を使えば正確な年代が測定できるが、残存試料は1万2800年分にとどまっていた。
水月湖では1991年に発見され、93年と2006年のボーリング調査で採取した土のうち約46メートルから約7万年間の年縞を確認したという。
「自然の精密時計」は、次のような自然界の様々な条件が重なって出来上がったものである。
水月湖は周囲から流れ込む大きな川がないことに加え、湖の底までが深く、湖底に酸素がないため生物が生息せず、年縞がかき乱されない。
さらに、湖の地面が下がる「沈降」という現象が続き、湖底に毎年土が積もっても湖が埋まらないという特殊な条件がそろっていた。
湖の地面が下がる「沈降」は、水月湖の「年縞」が長期間連続するための重要な自然条件である。
また、そこに含まれる葉や枝の「放射性炭素年代」の測定が終わっている点で、世界でも類をみない堆積物なのである。
日英独などの研究チームが分析を進め、昨年7月に開かれた国際会議で地質学的年代の「世界標準」とすることが決まった。
そして、約5万年の地質学的な年代決定の「世界標準」となり、過去の気候変動などを調べることも可能になった。
また、年縞の堆積状況から地震や洪水の発生頻度を知ることができ、地球環境の変化が人類史に及ぼした影響の解明にもつながる。
今後地球規模の気候変動をより正確に解明できるほか、火山噴火や大地震の防災、考古学などに役立つと期待されている。
スイスとイタリアの国境にある孤立したゴンド村にはかつて金鉱が存在し、運だめしをしようとする500人の探鉱者が詰めかけていた時代があった。
しかし今や人口40人で、もはや金は採掘されていない。
約20年前に起きた破壊的な地滑りで家屋が倒壊し、部の住民は村を離れ、若者が減った。
そんな長年不遇をかこってきたゴンド村だが、近年新たな「鉱山」が希望をもたらしつつある。
そこで採掘されているものというのは、仮想通貨。ではどうして、この村が仮想通貨の採掘場として人気となったのか。
現在流通している仮想通貨は1000種類以上あり、その数は毎日増え続けている。
ビットコイン価格のとめどない上昇を見て、世界中の人々が仮想通貨に新たな可能性を見出そうとしているが、ベンチャー企業アルパイン・マイニング社がこの場所を仮想通貨の採掘(マイニング)場として選んだ。
この仮想通貨の採掘場は、点滅する光と低い唸り声を上げるコンピューターサーバー、絡み合ったケーブルやパイプだらけの小さな部屋。
人々は、複雑な数理学的問題を解いて「仮想通貨の報酬」を得ているのだという。
100個以上のリグを収める金属の枠は、養鶏場向けの鶏小屋メーカーに発注した。装置を固定するプラスチックのクリップは、採掘場の3Dプリンターで製作したという。
さて、ビットコインは仮想通貨の一つで、ネットワーク上の「ブロックチェーン」と呼ばれる取引台帳に取引を書き込むことで、仲介業者を介すことなく個人間でのお金のやり取りが可能になりそれが誰もが確認できる。
そのためとても安い手数料で安全な取引ができる。
この確認という行程であるが、二重払いや不正を防ぐため、過去の取引情報のデータの整合性を取りながら取引の承認・確認作業を行うことを「マイニング」という。
具体的には、「A氏からB氏にコインを渡す」といった取引内容が、鎖のように連なる台帳データの「末尾」に、定期的にまとめて追記される。また参加者全員が同じデータを共有するので、不正送金は非常に困難である。
重要なのは、どれが正しい台帳であるかが、常に明確になっていることで、そこが担保されなければ、このシステムは成り立たない。
そのために、台帳の信頼性を確認・維持するための作業に、基本的に誰でも参加することができ、しかも新たなビットコインがその報酬として得られるように設計されているという。
これがインセンティブとなって、中心的な管理者がいなくても、このシステムは自動的に維持されるようにな、同時に、新たなコインが持続的に供給されるわけだ。
その膨大な取引情報を書き込むためにはたくさんのコンピューターリソースを使う。
この膨大な計算の対価として最初にこの取引情報をブロックチェーンに書き込んだ人に対して新たなビットコインが支払われる。
イメージとして、例えば143を素因数分解しなさいという問題がマイナー(採掘者)全員に出されたとする。この時13×11を最初に見つけた人がマイニング報酬を得るというわけである。
マイニングの参加方法のひとつは、自分のPCの計算能力を使ってマイニングに参加するが、よほど高性能なコンピュータでもなければ電気代の無駄遣いとなる。
より一般的なのは、「クラウドマイニング」と呼ばれるもので、投資をしてマイニングに参加する方法である。アパイン・マイニング社は、このサービスを提供している。
ゴンドの採掘場は、毎日部屋に冷風を送り、熱を逃がすための複雑に絡み合ったパイプは、チームのメンバーたちが自分で設計し、配管をしたという。
フル稼働で毎時350キロワットの電力を消費すると予想している。操業後1年で売上高は約100万ドル(約1億1300万円)に達する見込みである。
スイスにはおよそ600カ所の水力発電所があるが、その中でもゴンドの水力発電所の立地は完璧で、しかも標高が高いため自然の冷却効果がある。
ゴンドは持続可能で環境に優しい電力を提供することができ、また電力価格も非常に魅力的である。
仮想通貨の採掘で消費される大量の電力が必要であることを思えば、特に重要になってきている。
世界最大級の採掘場のいくつかは中国にあるものの、化石燃料を燃やし、明日にも政府に閉鎖させられるかもしれない状況で運営されている。
スイスでの仮想通貨の採掘は、費用こそ中国より高いが、環境に優しいことと安定性は、何物にも代えがたい商品だといえる。
また、スイスが政治的に安定していることも大きい。
すべての物質は「原子の集まり」で、原子が最小限の単位つまり「素粒子」と思われていたが、原子核」の周りを、電子がクルクルと回っていることがわかり、原子の大きさを野球場とすれば、原子核は「ボール1個」分ぐらいの大きさにあたるという。
だから原子の大きさとは、電子が回る軌道の直径であるが、原子核からすれば、電子ははるか遠くを飛んでいることになる。
さらに、原子核の内部にも「陽子」や「中間子」といった内部構造があり、その陽子や中間子もいくつかの粒子によって形づくられていることがわかった。
結局「素粒子」つまりこの世界で一番小さいものは、10のマイナス35乗メートルという大きさである。
以上は「極小」世界の話であるが、「宇宙の広がり」の方は、10の27乗メートルという大きさである。
この気が遠くなる極大と途方もない極小。両者の距離からして、何の関わりもないと思いがちだが、最近の科学はこの間に「兄弟」のようなキズナがあることを明らかにした。
そして「素粒子」を探ることが、「宇宙の成り立ち」ばかりではなく生命の起源を知る上で、重大なヒントが「隠されている」ことが判った。
さて、こういう宇宙と素粒子との結びつきへの視点を提供したのが前述の「ビッグバン」の発見である。ビッグバンとは、この宇宙には始まりがあって、爆発するように「膨張」して現在のようになったとする説である。
それは、ビッグバン直後には、宇宙は極小の素粒子だったという奇想天外な説である。では、なぜゼ宇宙が「加速的に」膨張しているのが判かったのかというと、「明るさ」の決まっている超新星の光を観測することで、判明したという。
つまり、ビッグバンの理論に基づく宇宙観によれば、宇宙空間とは我々が住んでいる世界と別次元でもなんでなく、「同質の世界」であるということである。
ニュートリノのような宇宙のチリをどうして莫大な費用をかけてまで捕まえようとするかだが、実はそこに「宇宙の成り立ち」のヒントが隠されているからである。
ハヤブサが惑星イトカワまで行って、8年かけてゴミを集めてきたことも、そのためだ。
宇宙と地球は同質である、つまり同じもので成り立っている。だからこそ人類は、「仲間」を宇宙に求めようとするのかもしれない。
実際、宇宙からいろいろなものが届いている。最近では、隕石ばかりか人工衛星の落下もあるが、宇宙から降り注ぐ粒子の一つが「ニュートリノ」。
人は仲間をもとめてか、宇宙からの何らかのメッセージの一端を捉えんと、まずはニュートリノをつかまえることに成功した。
ニュートリノが地表に着くと、なにかが揺れるはずである。それを感知できる装置がカミオカンデ。
岐阜県の神岡鉱山の地下に、1987年2月に、地下1000メートルに3000トンも水を湛えたタンクを用意して、11個のニュートリノをつかまえたのである。
2012年 東京大学の小柴昌俊教授を中心として作られたカミオカンデで、世界で始めて「ニュートリノ」を捉えることに成功した。
我々の体はニュートリノを1秒間に何10兆個もあびながら、体の中を何事もなかったように通り過ぎる微小なもので、なかなか捕らえることができないのだそうだ。
そこで、地下深くの「雑音」のない世界に人工的な池をつくって微細な振動きを捉えようとした。
新約聖書の中の、天使が舞いおりてきて一瞬水面をかきまぜるという「ベテスタの池」を思い浮かべる。
そこは、詩人の言の葉(ことのは)ひとつでさえもノイズになりそうだが、宇宙に広がる静寂と孤独をとらえた詩人の言葉がある。
「万有引力とは、ひき合う孤独の力である。
宇宙はひずんでいる それ故みんなはもとめ合う。
宇宙はどんどん膨らんでゆく それ故みんなは不安である。
二十億光年の孤独に 僕は思わずくしゃみをした」(谷川俊太郎「二十億光年の孤独」より)。