2045年法的安定性

先日の首相補佐官の「法の安定性なんて関係ない」という言は、首相の「法的安定性は確保されている」という言葉からすれば失言だったが、たまたま今の状況を言い当てているエッジィ(先鋭的)な言にも聞こえた。
というのも、集団的自衛権をヌキにしても、これから様々な分野で「法的安定性」が損なわれそうな状況があるからだ。
今、世の中が科学技術の進歩についていっていない。それは法の整備や制度が科学の発展に立ちおくれて、科学技術を人間の生活に見合うように制御できてイナイ面が目立つということである。
その典型が原発であるが、それ以外にも、遺伝子検査やドローン、ビットコインのや音楽の無料配信など法整備が不十分な問題が目白押しである。
まず遺伝子検査についていえば、今や「検査ビジネス」というものが登場している。
遺伝子検査により、遺伝性乳がんの発症リスクの診断や、抗癌剤に効き目があるかなどを調べる「医学的検査」から、肥満タイプや長寿の可能性などを調べる検査まである。
ただし今のところ「医学的検査」で調べるのは「1つの」遺伝子変異によって病気になる「単一遺伝子疾患」に限られるという。
一方、「検査ビジネス」が主に扱うのは「体質」など多くの遺伝子が関わるのに、ホンノ「一部」しか調べていない。
検査では「SNP」(一塩基多型)と呼ばれる遺伝子の「わずかな配列の違い」を見ている。
ある特定の遺伝子で本来の塩基の並び方が「GT」であるべきところが、「GA」と変化している人は、「太りやすい」といった具合にである。
しかし誰もが想像できるのは、「肥満」になるか否かは、食べすぎや運動不足・ストレスなど「生活習慣」と関わりが大きいということである。
遡ること1980年に、天才のスーパー遺伝子を受け継ぐ子供を増やし、人類を悲劇から救うと銘打った「ノーベル賞受賞者精子バンク」と呼ばれた精子バンクが設立されている。
現在、アメリカ最大手の「精子バンク」は、事務所を超名門大学の傍に置いている。ドナーを探すのに、有名大学の学生が最も理想的だからという。
そこでの精子提供者というは、1回100ドルぐらいの謝礼しか受けないので、お金なんかより、人の役にたちたいという思いからだという。
この「精子バンク」利用者は最初は子供に恵まれないカップルが多かったが、しだいに未婚女性とか同性愛者に変わっていった。
そして彼女らがバンクに聞きたがる質問の断然トップは、「ドナーは誰に似ているか」ということである。そしてドナーの写真や「子供時代の写真」も見ることができる。
まるで、「オンラインショッピング」の感覚で身長・髪や目の色などの条件を出せるのもこの会社のウリである。ちなみに数少ない日本人のドナーの中に「浅野忠信似」というものがあった。
今年になって日本社会はドローンという技術に意表をつかれた感がある。
ドローンの応用は、少し想像しただけでもピザの宅配から、防犯用まで、際限なく広がりそうだ。
しかし家庭用の防犯ドローンが、侵入した車や人を追い続ければ、犯罪への大きな抑止力となるものの、他人の敷地に侵入したり、落下することや、映像が「防犯」以外の他の目的で使われる可能性もある。
様々な問題に、どう規制するか、規制しすぎるとその良さが失われる。
先日、ビットコイン最大手マウントゴックスのフランス人CEOが逮捕されたというニュースがあった。
マウントゴックスが経営破綻してからも、取り引きは今も続いていて、1日の取引量は50億円以上ある。
最近では最も高騰した時のおよそ4分の1の価格だが、国内企業の中には、海外に遅れをとらないようにと、ビットコインに関連したサービスに参入する動きが見られる。
ビットコインは利用者から見れば外国のお金、外貨のようなイメージを抱くと分かり易い。
多くの場合、取引所でビットコインに「両替」をしてもらい、スマートフォンなどの専用のアプリに入れ、お店で買い物をするのに使う場合、電子メールのような操作をして、お店のパソコンにビットコインを送れば支払い完了。
取引所の数は少ないので巨額の金が集まるが、銀行などと違い監督官庁による金融検査や監査もない。
使い込みをしていないかなどは、取引所が自主的に情報を開示しない限り、確認する仕組みがない。
利用が拡大していくならば、取引の安全性をドウ保障するかが大きな問題である。
一般消費者の間にもビットコインの普及を目指すならば、法的な規制による信頼確保は欠かせない。
今日、音楽の無料配信によって、CDなどが売れなくなったと聞く。それは本が売れなくなったのと同じで芥川賞受賞者でも、次が出なければほとんど忘れ去られる時代といってよい。
ネットの発達により、ほとんどタダ同然に曲がきけるのは有難いが、その分アーティストの「知的所有権」はどうかという疑問がわく。
最近、アップル社は待望の音楽ストリーミングサービスで3カ月の「無料トライアル期間」を設け、その間はアーティストに楽曲使用料を支払わない方針を示していたが、女性アーティズトのテイラー・スウィフトがネット上に「私たちアーティストはタダでiPhoneが欲しいとは言いません。私たちにもタダで音楽を提供してほしいとは言わないでください」という書き込みをした。
彼女は他にも「音楽はアートであり、アートは重要かつ貴重なものです。重要で貴重なものは、価値があります。価値があるものには代価を払わなければなりません。音楽は無料であってはいけないというのが私の意見です」とも書いている。
書き込みの数時間後に、巨人アップルは方針を転換した。テイラー・スイフト25歳の影響力のすさまじさを物語るが、ほとんどのミュージシャンはモノ書き同様に、才能ある人でも夢を持ちこたえることが厳しい現実が起きつつある。

今日の科学の進歩は、既存の「法理」を超えるような現実を生んでいるのではないか。
つまり、過去の判例や論理からは対処できないほど、従来の「法」のなりたつ地盤そのものが揺らぐ状況が、様々の分野で起きるているということだ。
さて、法の大前提として、法は「心の中」までを問わない、罪を問えない。そして責任をとれるのは人間のみである。
つまり、法が裁けるのは人間であり、行為としてあらわれたことノミである。
しかし、こうした前提がアヤフヤニなると、「法的安定性」を保つのは難しい。
例えば「思った」だけでも、モノに自動的アクションを起こす信号を送ることができるのだとしたら、気軽に物思いにふけるなんてこともできなくなる。
国際電気通信基礎技術研究所(ATR)が昨年末、脳波を使って「念じる」だけで動かすことができる装着型ロボットの試作機を公開した。
家電や車イスと組み合わせ、高齢者や障害のある人の日常生活を補助するのが狙いである。
ロボットは、脳と機械をつなぐ「ブレーン・マシーン・インターフェイス」とよばれる技術の一種で、ATRとNTT、島津製作所などが共同で開発したものである。
電動車イスに座り、頭に脳波を読み取る装置をつけた利用者が水を飲む実験では、黙ったまま念じると、約6秒で脳波を解析。
電動車イスが室内にある水道水の蛇口の前まで移動した後に、上半身に装着したロボットが利用者の腕を伸ばしたり、曲げたりして、コップに水をくんで口元まで運んだ。
研究チームによると、「水を飲みたい」という脳波はあいまいで読み取るのが難しいため、利用者には「手を動かすイメージ」を念じてもらいスイッチとして利用するのだというという。
さらに進化したものに「ブレインネット」というものが登場しており、人間の脳を直接インターネットにつなげ、会話の際に感情、ニュアンス、ためらいなど、心理状態の情報まで全て伝えられる。
人々の極めて私的な思考や感覚を共有できるようになる。つまり、心でビデオゲーム、コンピュータ、家電を操作することができる。
こうした状況の中、「つい他のことを考えて」起きる危険や問題について、従来の「法理」で対処できるだろうか。
今、高齢化社会にむけて、体に装着するロボットスーツにより、自立歩行の支援を受けたり、トレーニングをしたりといった活用が始まっている。
下肢に障害を持つ人でも、脚を動かそうという思いに応じてロボットが動作支援をしてくれるのだ。
こうしたロボットの社会導入にともない、予期せぬ損害を扱う「ロボット保険」の検討も始まっているという。
さて産業用ロボットといえば日本のお家芸だが、これらの産業用ロボットは、アームが高速で動いたり、ものを運んだりするもので、それ自体危険であるとしても、ソノ名前どうり人間の生活とは「距離」をおいて動いているにすぎない。
しかし、これからロボットが家庭内にはいってくると、人間と「接触する」場所で動作することになる。
家庭では、すでに地雷探査の技術を応用した掃除ロボットが実用化されているが、そのロボットが寝ている人の髪を吸い込んで離れなくなったという事件がおきている。
従来、機械は人間の命令で動くものであったが、今や機械が「独自の判断」で動くスナハチ自立型ロボットの場合、それによって起こされる事故やトラブルを一体誰がどう責任を負うのかという新たな問題が起きている。
例えば、これらは既存のPL法では対処できるのだろうか。
ロボットが普及するためには、事故を起こした場合のに、すべてが製造者責任ということになると企業側にとっては大きなリスクとなり、ロボットもなかなか普及していかない。
日本が技術的に素晴らしい「介護ロボット」をつくったとしても、それが普及できないひとつの理由は、関連する役所の認可が降りず、それに向けて法整備ができていないからだ。
ところで、東京の新橋からお台場にむかう「ゆりかもめ」は運転手がいない。
つまり、すべてがコンピュータ制御で動く「新親交通システム」なのだが、この技術はあくまでレール上で制御であるが、一般道路に出で安全を保障しつつ運行させるとなると、飛躍的な技術を要することはいうまでもない。
最近の自動車は、「自動操縦」ということが行われており、人間は自動車というロボットに運ばれているという見方さえできる。
人間の運転なしで走行できる自動車とは、レーザーレンジセンサやカメラで走行場所の3Dマップが作られることで、人間が運転するよりも安全性は「格段に」上昇するのだという。
しかし、その機械に対する信頼の高さコソがリスクで、都会のヒート熱などが原因で誤作動することもないとはかぎらない。
そうした場合、何らかの事故が起こったら、その責任はどうなるのだろうという疑問がわく。
また、機械の安全性に胡坐をかくモラル・ハザードもおきるだろう。
機械(ロボット)は責任はとれないから、人間が責任をとることになるが、それでは「作った人間」「売った人間」「所有する人間」「操作する人間」など、自動操縦の車が事故が起きた場合の法的責任について、日本では検討すらされていないのが現状のようだ。

「人工頭脳」の最先端を行くアメリカでは、これまで人間にしかできないと思われていた知的労働まで担い始めている。
スポーツの試合展開に応じて瞬時に作られていく解説が、記者ではなく、人工知能が作成される。
膨大なデータをもとに、コンピューターが自動で文章を作成する仕組みだ。
バスケットボールの試合で、選手がシュートを放とうとした瞬間、プレーの解説情報が瞬時に作らる。
例えば「この選手は最近スランプで、3ポイントシュートを15本中2本しか決められていない」などと。
どうやっているかというと、人工知能に、あらかじめ過去の解説記事と表現を選ぶための「前提条件」が与えられている。
人工知能は、過去の記事がシュートの成功率何%のときにスランプと表現しているかを調べ、具体的な判断基準を作る。
この技術を応用したシステムは100社以上で導入されている。
記者は単純な作業をなくすことで、より重要な記事を書く業務に専念できるようになった。
そして将来的には、記事をチェックするだけの記者と、機械には書けない記事を執筆でき記者に二極化されていくかもしれない。
アメリカの大学入試や卒業認定で使われている小論文を、人工知能が自動で採点するシステムも実用化され、全米で1500以上の教育機関が活用している。
人工知能は、文章の長さや語彙の数など、人が考えた採点の条件と過去の論文データを照らし合わせ、複数の判断基準によって論理的な構成などを正確に判断できるのだという。
しかしシステムに精通した人が、実験的に機械が評価する条件を満たしただけの意味不明な特殊な文章を作成した。これをソフトの解答欄に入力し送信ボタンを押すとと、数秒後に「満点」の結果かえってきた。
そこで、最近では「ディープラーニング」という新技術が進化のカギを握っているという。
ディープラーニングとは、人間の脳のニューロンをモデルとした人工知能で、独自に「判断基準」を見つけ出す技術である。
これによる自動採点システムでは、あらかじめ人間が採点の条件を与えなくても、大量の論文を読み込むことで、自ら「判断基準」を見つけることができるようになる。
さて、教師の能力とは、どういう生徒にどういう教え方をするのが適切かを判断することにあるが、コンピューターが生徒のついての様々なデータ蓄積することによって、つまずきのポイントをいち早く見つけ出し、それを補強する教材を瞬時に提供できる。
したがって、コンピュータの方が人間よりも教えるのがウマイという状況もおきる。
ただし、生徒をやる気にしたり、生徒に夢を与えるといった役割は、やっぱり人間しかできない。

法の安定性は、人々が安心して生きていくために欠かせない。突然、国家に財産を没収されるような社会では、誰も真面目に働く気がしないだろう。
だから新しい問題が起きたとしても、既存の法の判断と解釈に照らしつつ、その枠組み(法理)の中で法整備をしなければならない。
つまり法は社会通念に支えられている。言い換えると「社会的な思いこみ」をベースにしているといってもよい。
一方科学は、人々が持っている「常識」を疑い、それを打ち破って新しい生活の断面を切り開いていこうとする。
例えば、機械は考えない、判断しない、感じないというのが常識で、人間の命令に従って動くものとされてきた。
しかし今や、電波の届かない災害現場で、独自の判断で動く自律型ロボットさえ登場している。
こうした常識を覆す科学技術は、必然的に社会通念をベースとする従来の法と摩擦を起こすことになる。
その分、新しい前提下での法の議論が必要で、結果的に「法の安定性」は揺らぐことになる。
さて、人工頭脳(AI)の世界で2045年問題というのがある。
2045年にはコンピューターの性能が人間の脳を超えるという予測である。この予測はコンピューターチップの性能が18ヶ月毎に2倍になると予測した「ムーアの法則」に基づいたものだ。
人類の知能を超える、究極の人工知能が誕生すると、その人工知能が更に自分よりも優秀な人工頭脳を開発していくといった具合に、爆発的スピードでテクノロジーを自己進化させる。この状況では、「法の安定性」なんてことは、もちろん無意味。
さて、これから我々が直面するのは、「法的安定性」に拘っていたら、対応できそうもない現実。それは科学技術ばかりか国際情勢にもアテハマル。
コウ見ると、先日の首相補佐官の発言は、本人の意図は別として「先見的」なメッセージにも聞こえますが。