臨界の諸相

ギリシア、イタリア、スペインなどの国債の「利回り」に世界経済の趨勢がカカッテいるなど、そんな世界にいつの間になっていたのだろう。
財政において国債の金利水準7パ-セントが一つの「危険水準」といわれる。
それ以上だと国債が「投売り」され財政破綻がおきてオカシクナイ「臨界点」に達するというわけだ。
「臨界点」は、原発事故でしばしば聞く言葉だが、「核反応の連鎖状態」スナハチ「臨界」まで核燃料を詰め込んで、ある量に達すると巨大なエネルギー反応が起こり大爆発する。
さらに水は温度が「臨界点」に達すると、液体から気体、または固体へと全く「別の状態」に変化する。
このように「臨界点」とは、 ある一定の量や状態に達すると、突然今までとは全く「別の状態」や世界に変わるポイントをさす。
「臨界点」をコウとらえると、ソレは「化学的変性」ばかりではなく、他にも様々な分野で起きている。
例えば、普天間基地へのオスプレイ導入による沖縄の県民感情や北朝鮮の食糧難も「臨界点近し」と思わせられるシチュエーションではなかろうか。
その他思いつくところを挙げると、支払った「保険料」分より低い年金シカもらえないなら、誰も保険料をオサメなくなるだろう。
つまり、年金制度は破綻する。
全国都道府県の11県で生じたように、地域の「最低賃金」が「失業保険給付水準」よりも低い水準になると、働くより失業給付で生活する方が、様々な経費を免れヨホド楽であるという事態が生じる。
このままだと、人々は働かなくなる。
あるいは、高速道路を無料化して混雑し一般道路の方が早く着いてしまったりしたら、高速道路の看板は降さねばならぬ。
硬貨の素材価値が、額面の価値より高くなったら、みんな鋳潰してしまってソノ硬貨はこの世から消滅してしまう。
「一票の格差」が違憲状態のまま、現状のママ選挙に突入したら「選挙無効」といわれても仕方がない。
一般の学校教有よりも不登校児のサポート高校の数が増るととか、正社員よりアルバイト・パートの数が増えてきたとか、多くの企業が海外にモノツクリ拠点を移すなどして大学を出ても就職先がナイとか、こうした「臨界状態」が同時に押し寄せてきたら、「国家」の枠組みソノモノが「臨界」に達しそうな感じさえする。
一つの組織においても、規模や成熟度の変化により、ある地点で全く別の制度や手法が必要となる。
一般に、どんなにウマク機能した制度でも、時間がたてば機能しなくなる「臨界点」というのは必ずあり、従来とは全く「別の発想」で制度設計を行うなどして対処する他はナイのである。

近年、重車輌のように「少子高齢化」が進行し、ソノ車輪の下に巻き込まれるカタチで様々な「臨界状態」が生じているように思える。
人口増減は複雑な因果関係に基づくが、人口の「逆ピラミッド」化という異様な形状変化が起きつつあることは確かである。
人に幸をもたらすハズの「医療」の発達も、この「逆ピラミッド」を頭に描くかぎりでは、「幸」とばかり言い切れないのが、皮肉なところである。
また勤労世代が激減して、「税収増」は期待できず、社会保障費は伸び続けるバカリとなることは明白である。サラニ問題はその「傾斜」の大きさにある。
国連推計などによると、日本の14歳以下の人口が総人口に占める割合は13・3%に過ぎず、これは世界(28・4%)の半分にも満たない。
一方、65歳以上の人口は22・7%で、世界(7・3%)の3倍だ。
しかし、これは序の口である。少子化が劇的に改善しない限りさらに年少人口割合は減り、高齢者割合は増える。
あと数年で団塊世代がすべて高齢者の仲間入りをする。
十数年後には高齢者の人口は約3500万人とピークを迎える。日本の総人口も急速に減っていく。
世界でどの国も経験したことのないハイ・スピードでの少子高齢化である。
厚生労働省が最近まとめた「国民年金加入者」の所得実態調査によると「4人に1人が無収入」という結果がでた。
平成21年の平均年収は159万円で、年収100万円以下が54・7%を占めた。
その低さに驚くが、「自営業者」中心の年金との印象が強かった国民年金だが、今回の調査ではパートやフリーターといった非正規雇用も23・4%含んでおり、その平均年収は79万円だった。
一方、老齢年金受給者1人当たりの平均年収は189万円で、年収1千万円を超す人も0・8%いた。
勤労世代が引退世代を支える年金制度の枠組が、モハヤ「臨界」を超えているのは明らかだ。
勤労世代に余裕がなくなっているので、昨年度の国民年金保険料の納付率は58・6%で過去最低である。
不安定な雇用を余儀なくされている若者が増大し、「保険料」を払いきれない者が多い。
勤労世代が減っていくために、いままでの年金制度の発想では「臨界点」に達し、正社員として就職し結婚し、子供ができてマイホームを取得するといった「人生モデル」はボヤケツツあるといっていい。
このこと自体が、サラニまた「少子高齢化」に拍車をかけているのである。
世界は今「ジャパン・シンドローム」に注目している。
戦争や内乱が起きてイナイ平和な国における「急速な」人口減が生じており、その国がどのような「社会設計」を行うかという問題である。
当然各国は、「破綻の物語」ではなく「克服の物語」として日本を参考にしたいのだが、何が起きるかを見守っているのが実情だろう。
また昨日新聞に掲載された大阪の「水道管破裂」は等閑視できない問題である。
この水道管を40年もとりかえられることなく使ってきたソウダが、それが破裂して3万人の世帯に白い水が出始めたという。
我々の生活を支える道路や上下水道、市民ホールなどのインフラも急速に老朽化が進んで「臨界点」に達しつつある。
多くは高度経済成長期に集中的に整備されたもので、このテの事故は頻発しインフラ改修に相当な予算が必要となる。
国交省の試算によると、従来の管理方法を変えなければ2060年度までに約190兆円が必要となると試算している。
財政難でこれも厳しいところだが、だからといって耐用年数を超えたインフラを放置することはできない。
ローマは帝国隅々まで道路や設備をつくったが、そうした「インフラ崩壊」が帝国の疲弊を招いたというケースを思い起こすところである。

最近、人々の中で意識に強くノボリはじめたのが、「世代間」の資源配分である。
また「民主主義」や「市場原理」が機能不全に陥っていると指摘されているが、「現世」と「後世」との間で「適正な」資源配分ができないということもその一つの表れである。
というものも、今マサニ「生きている」人々にとっての関心事は「現世」であり、そうした人々の政治的意思の決定は、「後世」世代への資源配分に対して低いプライオリティしかもたないのは自然である。
自分の直接の子や孫でもない「抽象的」世代のために、「今」の増税を受け入れがたいという点で民主主義も市場原理も「適正」には機能しえないということである。
これは環境保全やエネルギー問題にも、ソノママあてはまる。
ところで「現世」と「後世」との関係の中で、創業者がいかにソノ事業を「後世」に伝えうる経営を行うか、ということも興味深い問題としてある。
つまり創業には大変な苦難があるが、ソレを引き継いで「維持することの困難」も大きい。
それは「創業は易く、守成は難し」あるいは「創業は難く、守成は更に難し」の言葉にもあらわれている。
チナミニこれは、呉兢撰の「貞観政要」が出典である。
日本の家電関連の大企業の衰退をみても「平家物語」がモノ語る「盛者必衰」のコオワリを強く思わせられる。
「企業30年説」が多少伸びようが縮まろうが、日本経済を牽引したような企業も青年期、壮年期を経て「老年期」に入ることはサケラレそうもない。
この間に周囲の環境も激変し、自らの変容と環境の変化に適切に対処して、事業を守り発展させていくことは、至難の業という他はない。
現在日本は、様々な規制緩和が行われ「創業」は以前に比べるとハルカに容易になった。
いくばくかのエネルギーとアイデアがあれば「創業者」たりうる。
しかし、問題はその後で「創業」から「守成」への変換がナカナカうまくいかない。
「泡沫会社」という言葉もあるとうり、挑戦者達が成功を軌道にノセ維持することは並大抵のことではない。
すぐに新たな挑戦者が登場するからである。
シリコンバレーの推進者達が、投資においてモットモ苦労する点といえば、「創業」と「守成」との明確な分離だという。
創業者が必ずしも「守成」に適した人間ではないという強烈な体験を経た結果、彼らが選択したのはCTO(最高技術責任者)とCEO(最高経営責任者)という仕組みだった。
日本で両方を兼ね備えた人物といえば徳川家康の名前ぐらいしか思いうかばない。
少々無能な人間が将軍になったとしても、「永続」できるように、様々な「仕掛け」をコラシタ幕藩体制を築いたからである。
この徳川家康の遠謀深慮と「平氏政権」とを比較すれば、一目瞭然であろう。
ところで、現世から後世への「資源配分」や「事業の継承」はワカルとしても、現世から「来世」への資源配分などアリエナイ話のようにも思える。
人々の意識の中に、「現世」と「後世」と「来世」とがあるとして、それらが占める「割合」が、その人の「人格形成」を決定付けている要素の一つとみなしてもよい。
個人がそうであるならば、社会でもそれがイエル。
「現世」と「後世」と「来世」の配分は、同一人物の中でも、それらの割合は「微妙に」変っていく。
死後の「来世」がアリヤナシヤという問題はおくとしても、日本の歴史の中で、「来世」を経済行為の中心原理とした時代があったのだ。
つまり終末意識が高まって「臨界」に達すると、「現世」や「後世」はあまり重きをなさなくなり、人々の行動原理まで変えてしまう。
平安時代に「浄土教信仰」に心を向けていた時代に、貴族たちは多くの寺社を建てたし、寺社への「寄進」という経済行為でさえそうした「来世」意識と無関係ではナカッタ。
そこで「来世」志向が高まると、人々は仏教で言うと「功徳」にはげもうと、タイガーマスクによる「ランドセル贈与」運動のようなことが、さらに深化して広範に起きる可能性はある。

ある調査によると、世界の動きの中で「政変」や「革命」が起きる「臨界」の指標して一番の指標は「食料費」の急速な値上がりだという。
日本でも1918年に「米騒動」がおき、寺内内閣が崩壊したことがソレを物語っている。
2009年11月「ベルリンの壁崩壊20周年記念式典」式典が行われ、ベルリンのブランデンブルク門でヨーロッパ首脳が参加する式典が行われた。
サルコジ仏大統領のスピーチに始まり、メドベージェフ露大統領、ブラウン英首相、クリントン米国務長官、オバマ米大統領の祝辞の映像が流れ、最後にメルケル首相のスピーチで終幕した。
ベルリン壁の崩壊の歴史的意義とヨーロッパ共同体の結束、世界が直面している課題に正面から挑戦しようという呼びかけがなされた。
この式典の演出の中に、高さ2、5メートル 、重さ20キロの発砲スチロール製のドミノ1000個が1.5キロに渡って建っている風景があった。
そのドミノを最初に倒す役目を担ったのは、ポーランド「連帯」のであったワレサ元大統領であった。
最初にドミノを倒すのがワレサ氏だったのは、深い理由があった。
ベルリンの壁崩壊から遡ること9年、そして「連帯」の指導によるグダニスク造船所労働者のストライキが行われ、こうした運動が1989年のポーランド民主化につながったのである。
表面的にはそうだが、グタニスクにおける労働者暴動の最大の理由は「食肉の値上げ」だったのである。
ワレサ議長ひきいる自主管理労組「連帯」は、こうした労働者の動きを統括することによって、東欧圏の中にハジメテ「民主化」のクサビをうちこんだのである。
またポーランド人として初めてのローマ教皇に就任したヨハネ・パウロ2世と謁見し、その「後押し」があったことも民主化実現の要因となった。
そしてポーランドで、東欧初の「自由選挙」が実施され、ワレサ率いる「連帯」が圧勝し、新政権として民主化を求める「非労働党勢力」が主導権を握りつつ、「労働党」勢力をも政権に取り入れる連立政権を発足させたのである。
1989年は東欧革命(民主化)と言われる時代を迎え、特にハンガリーでの「ピクニック事件」も、その影響であり、このアタリからドミノ倒しが始まったといっていいが、ソノ「口火」は食肉値上げに反対した労働者達だったのである。
もっとも、ベルリンの壁崩壊にいたる一連の事態の進展は、ソビエト自体の変容が大きな背景があり、その配下にあった「社会主義体制」が臨界点に達していたということを示していたといえよう。
さて現在、「食料価格の値上がり」が政情不安要因となりつつあり、ソノ「臨界点」に達しつつある地域は少なくない。
「アラブの春」を引き起こす上で食料価格が果たした役割については、すでに広く指摘されている。
その背景において着実に増大しつつある価格上昇傾向である。
主に商品投機、農作物の燃料への転用、および肥料と石油の価格上昇がもたらしているこの傾向は、2012年~13年の間に、「臨海値」を超えるという見方もある。
そこで、北アフリカや中東より安定した国々でも、広範囲に及ぶ政情不安や社会不安が発生するオソレがあるという。

昭和のはじめ、都市の人口と貧困の問題に真正面から戦った日本人がいた。
「生めよ増えよ」の国策の時代に、人口増による貧困を訴え産児制限を唱えたが、右翼によって暗殺された。
学者出身の国会議員・山本宣治の死は、わずか39歳の時であった。
山本宣治は若い頃アメリカ大陸に渡って、当時の日本には無かった「自由と民主主義」を身につけ、学者になってからも、ただ学生に学問を教えるだけで満足せず、貧しい労働者・農民にまじって世の中をよくする運動に身を投じた。
やがて労農党の代表として衆議院議員に当選し代議士になってからも、戦争へ戦争へと国民を引きずって行こうとしていた政府の政策に真っ向から反対し、軍国主義者から命を狙われた。
人々が慣れ親しんで「山宣」と呼んだその人は、宇治川のほとりにある料理旅館「花やしき浮舟園」の若主人でもあった。
ちなみに画家・竹久夢ニもこの料亭で、絵筆をふるっている。
今でも、宇治の町では毎年彼の命日である3月5日、善法の墓地で「山宣墓前祭」をひらき、彼の意志を受け継ぐことを誓い合う集いをもっているという。
墓碑銘にある「山宣ひとり孤塁を守る。だが私は淋しくない。背後には大衆が支持しているから」は塗りツブスまで建立を許されなかったシロモノである。
しかし何度塗りつぶされても、いつのまにか彫りトラレ、「山宣ひとり孤塁を守る」の墓碑銘が浮き出したという。