ユダヤとフェニキア

サミットが開催されたシチリアの地は、映画「シシリアン」や「ゴッドファーザー」の舞台として有名な地である。実は、自分にもシシリアンとの接点がある。
ただし、マフィアではなく「シシリアン」と名のつくピザである。
1980年代アメリカ滞在中、ほとんど座布団のアメリカン・ピザ、バケツ盛りポップコーン、グローブばりのハンバーグといった「異文化体験」から我が身を癒したのが、当時かわいらしく目に映った「シシリアン」であった。
実際、「日本初のピザ」説のひとつは、戦後の1946年、兵庫県宝塚市の宝塚温泉街にある寶來橋付近で創業したイタリア料理店「アベーラ」説が有力で、初代店主となったオラッツィオ・アベーラはシチリア出身、日本国内にはイタリア料理店などはほぼ存在しない戦後間もない時期の創業であった。
ところで、シチリアといえば、ローマ帝国と死闘をしたカルタゴのハンニバルを思い起こす。
カルタゴはフェニキア人の国だが、このフェニキア人の世界貢献はなんといってもアルファベットの創造だが、ユダヤ人との接触を通じて世界史に与えた影響ははかり知れない。
さて、シチリアサミット後に、トランプ大統領を待っていたのが、いわゆる「ロシアゲート」事件である。
ニクソン大統領時代の「ウォーターゲート」事件になぞらえた名前だが、トランプはいわば「ニクソン・チャイルド」というべき存在なのではなかろうか。
それは、主に二つの意味においてである。
一つはアメリカや世界が完全に「ペーパーマネー」の時代になったという点、もうひとつはアメリカの「精神的な価値」の失墜し、力の誇示に傾く分岐点だった。
アメリカという国の「天才的特質」は、新しくやってきた人々を吸収し、アメリカの海岸にたどりついた共通点のない多くの人々から「国家」としての独自性を築きあげていく力にある。
その点でアメリカを支えてきたものが二つある。
ひとつは、「奴隷制度」という原罪は消し去ることはできないにせよ、法の下で市民は「平等」という考えと中核に据えていること。
もうひとつは、他のどんな国にも劣らず、地位や肩書きや身分に関係なく来る者みんなに「機会」を提供してきた経済システムがあることである。
それで、「アメリカ」を人々の意識の中にスリコマセていく長期の過程が「大統領選挙」というもので、アメリがで国をあげての「お祭り騒ぎ」となる。
「古い伝統」というものに訴えて、国のアイデンテティを確保することがで期待できない、アメリカ独自の「国のまとめ方」ともいえる。
それでも、アメリカも大統領選という機会を利用して「建国の理念」に立ち戻るということはできる。
それは大統領が聖書に手をおいて誓うなど、「ピューリタニズム」の原点を確認し、どんなに世俗的な力が働いていようと、そこには「聖なるもの」が装われることになる。
それは同時に、「アメリカの使命」と「人類の未来」が重ねあわせて語られることでもある。
つまり、アメリカの「まとめ方」は、過去ではなく未来のビジョンにあるともいえる。
つまりアメリカ人であることは特別な「ミッション」をもつものであり、その代表者である大統領を皆で選ぶことにおいも「特別な意義」をもつものであることが、メディアや演説や討論会を通じて植えつけられる性格のものである。
それほどまでに、アメリカにおける「選挙」は神聖なものでなければならず、「祭り」を汚す不正や腐敗があることは、ピューリタニズムという「建国の理念」を汚すことである。
その意味において、1979年におきたニクソン大統領の「ウォーターゲート事件」が、どれほど深刻に「アメリカの自画像」を傷つけたかということである。
実は、「ウォーターゲート事件」とは、民主党ビル侵入・盗聴事件だけを指すのではなく、この事件をきっかけに露わになったアメリカ政界の腐敗を示す「一連の出来事」なのである。
「ウォーターゲート事件」により、アメリカが「誇り」や精神的意味での「使命」を失っていった。
その分、「経済力」と「軍事力」といった「力」だけを頼りに、その誇りを取り戻そうとする国家となっていった。
その典型的な表れが、1980年代レーガン大統領で、「力の誇示」が前面に出た。。
また1971年のニクソンショック、すなわち金とドルとの「交換停止」の意味するとことは、世界で最後に「金本位制」を維持してきたアメリカがソレを放棄したことにより、世界が完全に「ペーパー・マネー」の時代に移行したということである。
またそれはアメリカだけが、お金を「印刷」するというコストだけで、ドルを自由に使うことができるようになったが、この自由は歯止めが利かなくなることを意味するものだった。
20世紀の前半まで、アメリカは「世界の工場」であり、「世界の農場」であったのだ。 工業製品も農業製品も世界中に供給するモノヅクリ大国だった。
ところが、アメリカはドイツや日本の追い上げをうけて、貿易赤字と財政赤字に苦しんで、「ドル安」にしても競争力を維持することができず、1990年代の初めには一転して「ドル高」政策に転換した。
これによって世界中の投資をアメリカに呼び込むことにした。そして、貿易赤字を投資マネーで補うことにしたのである。
つまり、「金融部門」を強化し幾多の金融商品を開発していくのである。
というわけで、今日の欧州信用不安もサブプライムローンという金融技術によって惹起された面が強いが、もう少し長い目で見ると、「ペーパーマネー時代」の起点となった「ニクソン・ショック」にいきつく。
ところで、ピューリタニズムとは「職業倫理」、汗水たらして働いて富を蓄積すれば、それが天に富を蓄えたことの証明になるという信仰で、彼らの意識の中には、まだ「天」というものが強くあった。
ところが最近の富の蓄積はマネーゲームで、勤労でなく地位にもとづく情報の違いによって富が一部の人々にもたらされる。
アメリカの精神たる「ピューリタン的」ならざるものが、サブプライムローンを代表とする「金融技術」で、その巣食う場所というのがウォール街。
今日、ディールや「分断」によってトランプ大統領に至る道は、1970年代初頭のニクソン大統領の時代に「分岐点」があったように思えるのである。

トランプ大統領の就任において「ピューリタニズム」の雰囲気が影を潜めたのは、クリントンとの討論会の品のなさとウオール街を多く政権のスタッフに招き入れたこと関係するかもしれない。
ウォール街を実質支配するのはユダヤ人なので、「ユダヤ教シフト」といいたいところだが、謹厳なユダヤ教徒とウォール街の成功者とは、どうしても結びつかない。
彼らの頭には「地上の宝」しかないようだからだ。
そんなことを思いながら、ある直感をもとにシェークスピアの「ベニスの商人」について調べると、ベニスという地名が「フェニキア」→「ベネチア」からついた地名であり、ベニスとは「フェニキア人の町」という意味であるとわかった。
フェニキア人は地中海交易で栄えた人々で、旧約聖書に「シドン人」として登場しユダヤ人ととても深い因縁がある。
実はフェニキア人との交流こそがユダヤ人の謹厳な信仰心を「変質」させていったといっても過言ではない。
紀元前11世紀にイスラエル全盛を築いたソロモン王は、神が禁じたのにも関わらず外国の妻を多く娶った。
外国の妻を娶ることは外国の神々をむかえいれることに繋がるため厳に禁じられたことであったのだが、ソロモン王はエジプトの女やシドン人つまりフェニキアの女を娶ったりして、バアル神や女神アシタロテを祭るようになり神の怒りをまねいた。
その結果、ソロモン王の死後にイスラエルは南北に分裂する。
イスラエルの北王国はその後滅び、ここに住む人々はすっかり異教の神々をも信仰し「サマリア人」とよばれ正統派ユダヤ教徒からは蔑視されるようになった。
最後まで残ったのが南王国のユダ族で、この部族名から「ユダヤ人」と呼ばれるようになったのである。
実はソロモンの栄華を最もよくあらわすエルサレムの神殿は、その資材がレバノン杉という良材に恵まれたツロ・シドンの地すなわちフェニキア人の地からもたらされたものであった。
皮肉なことに、このフェニキアの神々への信仰(バアル神、アシラ女神)の混入こそが神の怒りをかうことにより、イスラエル分裂のきっかけをつくったのである。
聖書にしばしば登場するカナン人とは、イスラエルがメソポタミアの地からこのパレスチナの地にやってくる前から住んでいた先住の人々で、「ヘテ人」として登場するヒッタイト族と、「シドン人」として登場するフェニキア人が主な人々であった。
つまりフェニキア人とはシリアあたりに住んでいたカナン人のことである。
カナン人は多産の女神であるアシラとその相手であるバアル神を崇拝していた。その信仰はバアル神とアシラ女神の性交によって、肥沃、豊饒、多産をもたらすと信じられていた。
実は、「カーニバル」という言葉の語源は、「カナン」とその信仰の対象であった「バアル神」を合成したものである。
そのフェニキア人が信じるバアルの神への信仰は、「金の子牛」を作って拝んだ姿として、映画「十戒」にも印象的に描かれている。
今日の「金の延べ棒」の崇拝者であるウォール街の人々と、バアルに膝を屈したユダヤ人が重なるのは、的ハズレのことだろうか。
そのフェニキア人とユダヤ人が「貿易商人」と「金貸し」という立場でイタリアのベニスの地で再び出会うというのが「ベニスの商人」の歴史的背景なのである。
バチカンのキリスト教会がユダヤ人をほとんどの職業から追放し農業をも禁じていたため、ユダヤ人にとって数少ない収入源として残っいたのが、高利貸し、両替商(貿易決済業)など利子を取り扱うことが多い「金融業」であった。
聖書では同胞から利子を取ることを禁じている。
ユダヤ人に「金融」を教えたのは、新バビロニアを立てたカルデア人である。
しかしユダヤ人が新バビロニアに捕囚として連れ行かれた時代に、カルデアの神官たちが参詣する信者達から金その他の貴金属を預かり書を発行し保有し、一部を引き出し請求のために残してて残りは「利子」をとって貸し付けているということを学んだのである。
またユダヤ人だと分かっただけで財産を没収されることがあったので、ユダヤ人にとって自らの名前を書かねばならない記名型の証券は安全ではなかった。
そのためユダヤ人の金融業者たちは、無記名の証券(銀行券)を発行・流通させる銀行をヨーロッパ各地で運営していた。
この技術は、やがてヨーロッパ諸国が中央銀行を作り、紙幣を発行する際に応用された。
国家の運営に必要な資金を最も上手に調達できるユダヤ人は、ヨーロッパの各国の王室にとってなくてはならない存在となった。
各国政府の中枢に食い込むことは、差別されやすいユダヤ人にとっては安全確保の手段でもあった。
ところユダヤ財閥の頂点にあるロスチャイルド家の血統はもともとはユダヤ人ラビであたるが、ベニスの貴族(フェニキア系?)の血統とも結びつきその後ドイツのフランクフルトに移住して高利貸し業をはじめ成功した。
1793年に始まったナポレオン戦争の後、ヨーロッパで多発するようになった国家間戦争のための資金調達をあちこちの政府から引き受けることで、急速に力をつけていった。
一族のうちの一人は1797年、産業革命が始まっていたイギリスに進出し、綿花産業への資本提供やドイツなどへの販路拡大を引き受けて大成功し、イギリス政府に食い込んで資金調達を手伝うようになったのである。

最近、トランプ大統領がアメリカ現職大統領としてはじめて「嘆きの壁」を訪問し祈りをささげた。
そこは、ユダヤ教のシンボルとなる神殿があった場所で、ユダヤ教徒が在りし日の栄光を偲び、一心に神に祈りを捧げるユダヤ教最大の聖地なのだ。
「嘆きの壁」から北西に500メートル、イエス・キリストが十字架にかけられ処刑された場所には、キリスト教最大の聖地「聖墳墓教会」が建っている。
また、ユダヤ教聖地「嘆きの壁」の上にイスラム教のモスク(岩のドーム)が建っている。
これは、7世紀、エルサレムを占領したイスラム教徒が、「この場所からムハンマドが天に上った」として記念に建設したもので、イスラム教第3の聖地として崇められている。
その一方、ユダヤ人にとって神殿の復興なくして真の意味での「イスラエル復興」とはいえない。
ところでアメリカの歴代政権や国際社会は、「エルサレムの地位はイスラエルとパレスチナの和平交渉で決めるべきだ」とし、日米を含む多くの国はテルアビブに大使館を置いている。
トランプ次期米大統領は、就任する前からイスラエルが「首都」とするエルサレムに米国大使館を移転する方針を表明していた。
イスラエルは1948年の第1次中東戦争で西エルサレムを獲得。67年の第3次中東戦争で「東エルサレム」を併合した。エルサレム全域を「不可分の首都」とするが、国際的には認められていない。
パレスチナ側は、「東エルサレム」を将来のパレスチナ国家の首都とする方針を堅持してきた。
パレスチナ自治政府のアッバス議長も、大使館を移転すれば1993年の「オスロ合意」で認めた「イスラエルの承認」を取り消すことを検討するとしている。
トランプ米大統領は、5月の中東歴訪に先立ち、トランプ氏は自身が「究極のディール(取引)」と称する中東和平交渉の打開に向け、イスラエルとパレスチナ自治政府の仲介に意欲を表明しているが、そのカギを握るのが、娘婿のクシュナー大統領上級顧問である。
ユダヤ系米国人のクシュナー氏はホワイトハウス内で、今回の中東歴訪の準備を主導し、トランプ氏からは中東和平交渉も委ねられている。
不動産開発企業クシュナー・カンパニーズの創業者チャールズ・クシュナーの長男で、 2009年にドナルド・トランプの娘イヴァンカと結婚。イヴァンカは結婚前にユダヤ教に改宗した。
トランプ大統領は「君が中東に和平をもたらすことができなければ、誰もできない」とクシュナーに語ったという。
ところで、トランプ政権にのロシア疑惑の発端は去年の大統領選挙でロシアがサイバー攻撃などによって選挙に干渉したとされる問題であった。
ロシアのプーチン大統領がクリントン氏の信用をおとしめ選挙活動を妨害するとともに、トランプ大統領の誕生を後押しすることを狙ってみずから選挙への干渉を指示したという疑惑だ。
このロシアのたくらみに、トランプ陣営の関与はなかったのかが問題となったが、FBI長官の解任がその疑惑を深める結果となった。
トランプ大統領も、ロシアの外相との会談で、イスラム国に関する最高レベルの機密情報をロシアに流したという疑惑も浮上している。
娘婿クシュナーも、ロシア側と独自の通信手段を構築しようとしたことが明らかになりつつある。
こうしたアメリカとロシアとの関係を見る時、ウォール街出身者で占めるトランプ政権と同様に、ロシア社会も、石油産業を中心にユダヤ系が強い勢力をもっていることである。
つまり、トランプ政権の「ロシア疑惑」については、単純な国家利害だけでは動かないユダヤ人の存在を見落としてはならない気がする。
そのユダヤ人の商才に磨きをかけたのが、シチリア島を拠点としたフェニキア人との交流であった。