白熊的「日本経済」

ホッキョクグマは陸生の動物だが、実際には生涯のほとんどを氷で覆われた海の上で過ごす。
泳ぎが得意で、何時間も氷の間を縫って泳ぐこともできまる。
成長したホッキョクグマは主に捕らえた獲物の脂肪を食べるが、これは体に厚い皮下脂肪を貯え、厳しい寒さを耐えるため。
特に、体脂肪の多いワモンアザラシの赤ちゃんは大事な栄養源で、アザラシの繁殖期である4月の終わりから7月半ばまでは、ホッキョクグマにとって、貴重な狩りのシーズンとなる。
氷上で休息する獲物をみつけると、ホッキョクグマはそっと海へ潜り、氷の縁などから獲物に近づいて相手を仕留めるのが得意な方法。
それ以外にも、セイウチやシロイルカ、魚や水鳥、それらの卵なども捕食する。
実は、そのホッキョクグマは絶滅に瀕しているという。死んだホッキョクグマの胃の中を見ると、海洋生態系の最上位にあるため、地球環境の悪化を"集約的"に見てとることができるという。
実は、日本経済の長期的趨勢を占う場合、「ホッキョクグマの胃袋」の中のように"集約的"に日本経済の実態が見えてくるのが、 意外にも、国際取引における「経常収支」なのである。
「経常収支」の前に、それと関わる金利の話をしよう。
ケインズは、金融資産を貨幣と債券だけと仮定する。それは債券を買うためには貨幣を支払い、逆に貨幣を保有するためには債権を売るという完結世界である。
実際の資産には、土地、宝石、貨幣、株式、債権などがあるが、ケインズ的世界では、貨幣を代表とする「リスクは低く収益も低い(ゼロ)資産」と、債券を代表とする「リスクは髙く収益(利子)も高い資産」の二者択一の世界である。
ここで利子とは、ケインズは2~3年の短期的世界を想定しているので「短期金利」と考えてよいが、具体的な金利というより、「利子の指標」のようなものと捉えるほうが自然である。
まず、世の中で貨幣がどうして必要か(貨幣需要)ということだが、経済規模の拡大に比例して取引が増えるため貨幣が必要となったり、不測の事態に備えて予備的に保有しようとすることもある。
前者が「取引需要」、後者が「予備的需要」で、利子とは関係なく所得水準と比例すると考えてよい。
ケインズによれば、利子水準の決定的要因は、債権価格との関係で貨幣を保有しようとする「投機的需要」である。
この「投機的需要」を理解するためには、まず債券価格と金利が逆に動くということから説明したい。
ここでは、債券の代表を国債として、「国債価格と利子」の関係を具体的に考えよう。
国債には、毎年いくら払うかがあらかじめ決まっていて(確定利率)、それは満期までかわることはない。そして国債には額面があって、満期が来ると必ずその額面の金額が払い戻される。
例えば世の中で、金利が2%だった時に、額面に対して毎年2%の利息を払うA債券が発行されたとする。
その後、世の中の金利が3%に上昇したらどうなるか。 国債は毎月その時々の金利をを反映する利息で新しいものが発行し続けられる仕組みになっているため、金利が3%になった時、額面に対して3%の利息を払う国債が発行される。
今仮に、2%の利息がつくA国債と、3%の利息がつくB国債が同じ価格ならば、当然利息が多いB国債を選ぶだろう。
すると、A国債は人気がなくなって、ここまで安いならば利息が低くてもイイヤと思うようになる価格が下落する。その結果A国債の額面に対する利回りはB国債の3%と並ぶことになる。つまり、世の利子が上がると、国債の価格は下がるのだ。
逆に、世の中で金利が1%に下がると、その時新たな額面に対して1%の利息を払うC国債が発行されるとする。
この時は2%利息がつくA国債の方が得だから、A国債を買いたいと思う人が増えて、いくら利息が高くてもこんなに価格が高いのは損だなと思う水準まで価格があがる。
その結果C国債の額面の利回りはA国債の2%と並ぶ。つまり、世の利子が下がると、国債の価格は上がるということだ。
以上まとめると、国債価格と利子とは反対に動くということである。
したがって、利子が低い時つまり国債価格が高いときは、将来の価格が下がることを見越して貨幣を保有し、利子が高い時すなわち国債価格が低いときは、将来価格が上がることを見越して国債を保有する。
そして、貨幣の取引需要、予備的需要、そして投機的需要をあわせたものが全体の「貨幣需要」であり、通貨当局の貨幣供給との需給関係で利子が決まる。
一般に、「10年もの国債の利回り」が長期金利の基準、「1年もの国債の利回り」が短期金利の基準とされ、それぞれ長短金融市場でその金利が決定する。

この世界、「一夜」を軽くみなしてはいけない。
一夜漬けに一夜干しぐらいは大したことではないが、"宵越しの金はもたねえ”といった江戸っ子ほど悠長ではなく、”一夜にして”財を築いたり、富を失ったりすることがあるからだ。
そういえば、バブル経済の余韻さめやらぬ中、1990年代のTRFのヒット曲に「オーバーナイト・センセーション」というものもあった。
金融の世界でも「一夜」が決定的の重要な意味をもつ利子率が、「無担保コールレート翌日物」というもの。英語に直すと、「オーバーナイト・コールレート」である。
1990年代の金融自由化以来、日銀の政策金利といえば公定歩合から、「無担保コールレート翌日物」こそが現在の日本の政策金利へと変わった。
ところで日本銀行の金融政策は、コール市場を通して実施されるが、コール市場のコールは、呼べばただちに戻ってくる資金という意味で、満期が1年以内の短期の資金である。
実は、銀行は日本銀行に当座預金口座をもっており、銀行間の資金のやり取りはこの日銀当座預金を用いておこなわれる。
例えば、コール市場でB銀行がA銀行から資金を借り入れると、A銀行の日銀当座預金がB銀行の日銀当座預金に振り替えられる。
日本銀行は銀行や証券会社と取引して、それらに資金を供給したり、それから資金を吸い上げたりしている。
このときの資金が日銀当座預金であり、金融政策はこの取引を通じて調節を行うことである。
コール市場の資金のお貸し借りはいくつかの形態があるが、その代表的なものが「無担保翌日物」で、これは無担保で借りて、借りた日の翌営業日には返済する資金である。
コール市場では、短資会社が資金の余っている金融機関とそれが不足している金融機関とを仲介して、需給を一致させるという仲介(ブローカー)業務を営んでいる。
ところで、日銀には準備預金制度というのがあって、銀行は一定比率を「日銀当座預金」を保有しなければならない。
そしてこの一定比率を「法定準備率」という。そして、銀行が企業に貸し出しをするとその企業の口座をつくって預金が増加する。
また銀行が国債などを買い取った場合、証券会社の預金口座に入金することにより国債の代金を払うため、ここでも預金が増加する。
世の中に出回る通貨量は、現金通貨と預金通貨の合計なので、銀行の企業への貸し出しや国債購入でも通貨が増加するということである。
準備預金制度の下では、銀行は貸し出しや証券投資によって増えた額に法定準備率をかけた分だけ日銀当座預金を増やさなければならない。
それを増やす方法こそが、コール市場で資金を借り入れることである。
つまり、預金がふえることにより、日銀当座預金に保有しなけれなならない「全預金×法定準備率」に満たない銀行が、資金を調達する市場こそが「コール市場」なのだ。
コール市場の参加者は、銀行・証券会社・保険会社などであるが、「借り手」は主に都市銀行で、「貸し手(運用者)」は、信託銀行、地方銀行、保険会社などである。
金融政策の実際をいうと、日本銀行が短期国債の買いオペを行って、銀行に日銀当座預金を供給すると、日銀当座預金が法定準備を下回りがちな都銀などが、地銀などからコール市場で日銀当座預金を借りる必要は低下する。
そのためコール市場では、コール資金の供給が需要を上回るようになり、オーバーナイトレートをはじめ、各種コールレートは低下する。
ゼロ金利政策とは前述の 「翌日物コール市場レート」をほぼゼロにするこで、お金の流通量を活発にすることを意図するものである。
しかし、取引日翌日には返済するというような"超短期資金"の金利をゼロにすることに、どれほどの意味があるのだろうか。
「翌日物」の金利がゼロになれば、都銀のようなコール市場で資金を調達している銀行は、満期が1~3週間物のうな「期日物」で借りる資金を減らしたり、やめたりして金利がゼロになった「翌日物」で資金を調達しようとするだろう。
1~3週間で資金を調達する銀行が減少すれば、1~3週間物の取引における需給が緩むため「期日物」の金利は低下する。
すると、1~11か月物で資金を調達していた銀行は、1~3週間物で資金を調達するであろう。そしてこの金利も下がる。
このような連鎖が働き、1年未満の期日物の金利低下は、やがて1年物の金利をも低下させることになる。

日本経済にとって長期金利は生命線である。おそらくは、資本主義の国はどこでもそうであろう。
設備投資などは、10年先の見通しのもとに行われてお金を10年程度借りて行われるケースが多く、その金利が高くては、設備投資がなされず景気後退から不況になるからである。
その長期金利があがらないようにするということが、政府日銀が一番腐心していることだといってもよい。
なぜなら、一般に短期金利は政策金利であり政府のコントロール下にあるが、長期金利はひとびとの予想に大きく左右されるところが大だからである。
日本国債が大きな借金にもかかわらす相変わらず強いといわれる最大の理由は「円建て=自国通貨建て」であることである。
日本国債は、円という自国通貨で発行し、円という自国通貨で返済する。返せない時の究極の保証は、日本政府が「通貨発行権」と「徴税権」とをもっているということである。
日本の"円"とは対照的なケースをみよう。ヨーロッパでギリシャの経済危機が記憶に新しいが、ギリシャに比べてもはるかに借金残高が多い日本国債の方が安全なのは、ギリシャ国債は「ユーロ建て」という根本的な違いがあることを忘れてはならない。
ギリシア人はユーロという通貨を使えるけれども、ユーロを勝手に印刷したり、発行する権限など与えられていない。
ギリシアは他のユーロ加盟国同様に、金融政策をすべてFCB(ヨーロッパ中央銀行)に委譲してしまったから、独立国でありながら独自には何もできない。
ただし徴税権はあるものの、ソクラテス・プラトンの時代より労働を軽蔑し「観想」を重んじる国民性のせいか、増税にはなにがあっても反対という人が多い。
経済危機にに際して、ギリシアは「10年物国債」を世界中の投資家に買ってもらおうとしたが、金利はなんと30パーセントに達した。それくらいの利率をつけなければ売れないということなのである。
というわけで、日本国債が、外国人の金融資産ということになれば、日本政府の徴税や日銀のコントロールの対象から離れるということを意味する。
日本経済の長期金利上昇の最大の不安因子は、やはり「高齢化/少子化」ということになろう。
高齢化で「貯蓄を取り崩す」人が増えていけば、国内だけでは国債購入の資金が足りなくなり、外国人にもっとたくさん国債を買ってもらう必要がでてくる。
その際には、外国人はもっと高い金利を要求するだろうから、長期金利は将来上昇する可能性が高まるのである。

今、日本は経常黒字でしかも世界最大の債権国である。つまり、借金があっても、返済するお金のアテは色々あることを意味する。
2018年度18.5兆円の経常収支黒字であるが、最近日本の経常黒字の構図が変わってきた。
企業が輸出で稼ぐのではなく、海外展開を進めて現地で稼ぎ、収益を日本に戻している。
経常収支とは、海外とのモノの輸出入、サービスの受払、投資収益の受払などの収支の合計であり、一国経済が海外から受け取る所得から、海外へ支払う所得を差し引いた"対外純所得"ともいうべきものである。
したがって、ある面で「経常収支」は、日本経済が海外から「稼ぐ力」、ひいては、日本の「国力」の指標ともいえる。
経常収支の性質は、多面的にとらえられるが、次のような関係式が成り立つ。
(A式)「経常収支=貿易収支+サービス収支+所得収支」で、この式は経常収支の説明式である。
(B式)「経常収支=所得(生産)-内需」で、経常収支は生産したなかで、国内民間需要で消費(or投資)されたものを除いたもの、すなわち外国需要と政府(純)支出を示す"実物的"表現である。
(C式)「経常収支=民間純貯蓄+財政収支」、この式は国民の貯蓄中投資にまわらなかった「民間純貯蓄」に「政府赤字」をたした、(B式)の"資金的流れ"を示したもの。
つまり、民間貯蓄である企業の内部留保や家計貯蓄で政府の借金(国債発行)がどれだけカバーできるかを示すものである。
この関係式、経常赤字がマイナスになるのは、財政赤字が大きすぎて、民間部門(家計+企業)の資金余剰(=民間純貯蓄)では、国内部門全体として資金不足をカバーしきれない状態をさしている。
つまり経常収支の赤字とは、資金調達を海外資金に依存する他はない状態に追い込まれる。
今後、日本の高齢化が着実に進展することは間違いない。こうした中、団塊世代が75歳以上の後期高齢者に加わる2020年代には、家計部門全体として、貯蓄を取り崩す局面に移行する可能性が高い。この場合には、前出の(C式)「経常収支=民間純貯蓄+財政収支」において、民間純貯蓄がマイナスに転じることを通じて、「経常赤字」が定着しやすくなる。
以上のように、「経常収支」は壮大な経済システムの中の一つの構成要素であり、他の様々な経済変数と密接な関わりをもって動いている。
ちょうど、「ホッキョクグマの胃袋」と同じように、日本経済の様々な問題が”集約”されて出てくるのである。
北極の夏、大陸沿岸の氷が解けはじめると流氷が多くなり、安定した定着氷域は狭まると、ホッキョクグマは食料が少なく断食のような状態が続くが、それが秋以降も続くことになる。
タテゴトアザラシの赤ちゃんは白くてフワフワした、他にたとえようのないかわいい生きものである。しかし、そのアザラシが今、深刻な自体に直面している。
流氷の上でアザラシは出産し2週間の子育てをする。だが、地球温暖化のせいで氷の成長が年々悪くなり、はやく氷が溶けて"とりつくシマ"がなくなる。
そのため、成長前の赤ちゃんが溺れ、これ以上に温暖化が進むと、タテゴトアザラシの出産する場所が奪われることになる。
ホッキョクグマの体力は「経常収支」、地球温暖化は「長期金利」の上昇、流氷の薄さは高齢者の「貯蓄の取り崩し」、アザラシの苦境は今日の「子育難」。
TVで北極海の映像を見ながら、日本経済の様々な状況と重なった。

アブソープション・アプローチ 支出面と分配面の式を使ってみましょう。2つの式はイコールの関係にあるので、 「C+I+G+(EX-IM)」=「C+S+T」となります。この式を変形すると、 (S-I)=(G-T)+(EX-IM)という式になります。 これが一体なんの意味をもっているのでしょうか。 「S」は貯蓄でした。貯金は基本的に銀行に預けられ、銀行は預かったお金を欲しい人に貸し出します。 お金を借りたいのはまず企業です。企業は投資「I」のための資金を銀行から借ります。 ◎これが左辺の(S-I)「民間部門」です。人々の貯金「S」は投資「I」に使われます。 右辺も見ていきます。 「G」は政府の支出です。このお金はどこから来るのかというと、国民の払った税金「T」です。税金は政府の収入です。(G-T)は「政府部門」と呼ばれます。 ◎支出「G」が収入「T」より多ければ赤字です。政府の赤字は「財政赤字」といいます。反対に、収入の方が多ければ「財政黒字」です。 (EX-IM)は前回の記事でも触れました。「EX」と「IM」は輸出・輸入を表すので、つまり日本と海外の貿易のことです。 ◎輸出額(EX)が輸入額(IM)より多ければ「貿易黒字」、逆だと「貿易赤字」です。「外国部門」と呼ばれています。 ここからが本番です。 (S-I)=(G-T)+(EX-IM)からいろいろな事が分かります。 “ ***おさらい*** (S-I):(貯蓄)ー(投資) (G-T):(政府支出)ー(税金(政府の収入)) (EX-IM):(輸出)ー(輸入) (民間部門)=(政府部門)+(海外部門) まずは民間部門「S-T」ですが、日本は戦後一貫して貯蓄「S」が投資「I」を上回ってきたため、左辺の「民間部門」はプラスでした。 (S-I)=(G-T)+(EX-IM)が成立するためには、右辺の(G-T)+(EX-IM)もプラスである必要があります。右辺がマイナスの値では、イコールにならないからです。 •正:(プラス)=(プラス) •誤:(プラス)=(マイナス) ←これでは式が成立していません。 つまり、日本は構造的に財政赤字(「G-T」がプラス)と貿易黒字(「EX-IM」がプラス)になりやすいということが分かります。