宇宙:軍事と演出

近年増えている超小型衛星の打ち上げは、これまでの莫大なコストと長い開発期間のかかる宇宙開発・利用に見られる高い敷居を徹底的に下げることで、新しい宇宙利用方法とプレーヤーを呼び込んでいる。
従来、宇宙に全く見向きをしなかった個人・大学・研究機関・企業・自治体などが、自分でお金を出して衛星を作ろうと考え、「マイ衛星」「パーソナル衛星」の普及も夢ではない。
このことと、我々の生活はどうかかわるか。
例えば、2012年5月に打ち上げられた人工衛星「しずく」は、地球上の様々な「水」に関するデータを観測することができ、その内容は海面水温、降水量、積雪量、海上風速、土壌水分、海氷など多岐にわたる。
大陸の大地がどれだけ干ばつにさらされているかのデータを観測することができる。
それが世界有数の穀物輸出国などであれば、その観測データはすぐさま、穀物市場の動向に影響を与えることになる。
実際、世界最大の「穀物メジャー」であるアメリカのカーギル社は、人工衛星で世界の穀物の育成状況を監視し、穀物相場に強い影響力をもっている。
そのように人間生活に密接に関わる宇宙は、実はゴミだらけなのだという。
今、宇宙を周回している人工衛星の数はおよそ1400基で、スペースデブリは、10センチ以上の大きさのものだけで1兆個ともいわれるほどだ。
デブリは、元をたどれば人工衛星やロケットなどの残骸であり、中には大型バスと同じくらいの巨大なデブリもある。
宇宙空間を秒速8キロで飛んでいて、弾丸の20倍ほどのスピード。大きなデブリとぶつかると、ひとたまりもない。
幼少の頃みたTV番組「ウルトラマン」に登場した「怪獣墓場」の回を思い浮かべるが、心ならずも葬った数々の怪獣たちに対してウルトラマンは弔意をあらわし、科特隊の隊員達も「怪獣供養」を行うという、今でも心に残る回であった。
アメリカでは人工衛星で遺灰を打ち上げ永遠にカプセルが地球を回り続ける「宇宙墓地」なんかも計画されているが、日本では散骨でさえも認められていない。
人工衛星の残骸がまるで墓場のように漂っている絵を想像するが「針供養」ならぬ、「人工衛星供養」も必要かと思わされる。
ところで、デブリは昔から宇宙業界が抱える課題の1つだが、衝突することはごくまれだが、2009年に起こったアメリカとロシアの人工衛星の衝突事故がきっかけで、なんとかしなくてはという状況になった。
というのも、日常生活の至るところで宇宙の恩恵を受けている。
身近なものであれば、衛星放送や天気予報、GPSの情報は衛星から取得していて、船舶や飛行機、農漁業の管理など、実にあらゆるシーンで衛星の観測情報が活用されている。
デブリを放置しておくと、早ければ30年後には宇宙が使えなくなるといわれている。
衛星が使えなければ、今の生活を持続できなくなる。
実は日本にデブリの除去に取り組んでいるアストロスケールという世界で唯一の会社が存在する。
会社が考案したごみ取りの方法は、デブリをロボットアームでつかむ、投網の要領でネットをかぶせる、銛(もり)で突くなど。
そして、最終的にはハエ取り紙のような粘着剤でくっつけるという方法を採用し、軽くて宇宙でも使える粘着剤を搭載した捕捉衛星をつくった。
何十社もの日本の中小企業の技術力を結集させ、キモになる「粘着剤」も、国内の企業と共同で開発したオリジナルである。
粘着剤にした理由の一つは、重量である。重くなればその分コストはかさむ。粘着剤の重さはわずか200グラム程度。ロボットアームはおよそ50キロであるから、その差は歴然である。
「捕獲衛星1基」当たりのコストを削減すれば量産化もしやすいし、より多くの衛星を宇宙に送り出すことができる。
ZOZOタウンの前澤社長の「月旅行」発言が話題になったが、地球と月との間に定期便ができて、人々は宇宙を自由に行き来できるようになると、シャトルが安全に航行できる環境をつくりのためにも、宇宙ゴミの除去が必要となる。
その一方で、別のベンチャー企業がいつでもどこでも流れ星を作り出すキュービック状の超小型衛星を打ち上げ、今春に瀬戸内海上空で実験を行うが、この実験でもゴミがでそうである。

福井県の寺の住職の朝倉行宣による「ハイテク法要」が話題を呼んでいる。
朝倉という姓からも推測できるとうり、この寺は1465年に一乗谷にでき、1584年に現在の場所に移築されたという長い歴史を持ち、朝倉は17代目の住職である。
朝倉は、中学生のころ、坂本龍一らが結成したテクノの先駆者YMOに夢中になったことがきっかけだったという。
その情熱は衰えることなく、20代前半、週末はクラブでDJとして活躍し、平日はライブハウスで照明の仕事をしていた。
2015年に父から住職を引き継いだのがきっかで、若い世代に仏教に興味を持ってもらおうと考え出したのが「テクノ法要」である。
イメージしたのは、経典にあるように「極楽浄土は光の世界である」ということ。あらゆるところが金銀宝石で飾られ、光り輝いている。
これまではろうそくで照らす程度であったが、時代に合わせて、光の世界も変わらなければと考えた。
100人は収容できるという寺の本堂で、光と音の世界が繰り広げられた。
ナントそこに"浄土系アイドル"とよばれる「てら*ぱるむす」の3人組ユニット”までが登場する。
実は彼女らの一人が発した「ナムい」(南無い)言葉が、ツイッター上に広まった。
そしてFacebookでそのパーフォーマンスが拡散した。
さて、京都の龍岸寺において開催された「テクノ法要」のハイライトは、ドローンに仏像をのせた「ドローン仏」の飛来である。
つまり、小さなドローンに乗っかった仏が法要にやってきた人々の頭上近くに飛来して、それに対して手をあわせるというもの。
「ドローン仏」の作者は仏師の三浦耀山という人。
仏師である三浦耀山は1973年埼玉県生まれで、早稲田大学政治経済学部卒業後、一旦は一般企業に就職。
そこから滋賀県の大仏師戸邊勢山に弟子入りした。
13年間の修行の末、耀山の雅号を得て独立。京都で仏像の製作や修復をしている。
仏師三浦耀山がドローン仏を造った理由とは、阿弥陀如来が雲に乗ってこの世に光臨する様子を再現するためだという。
当初木製の仏像でテストしたところ重すぎてドローンが離陸できないという事態に!それから2年間試行錯誤をかさねて木製の仏像を3Dプリンターで作製、樹脂製で中を空洞にすることで8gという軽量化に成功した。
最終目標は来迎図を再現するために阿弥陀如来像にプラス25体の菩薩像製作が目標。
来迎は観無量寿経で説かれる阿弥陀四十八願の一つで、浄土信仰をもつ衆生(しゅじょう)が死に際して阿弥陀如来の来迎引接を受けること。
京都国立博物館「阿弥陀二十五菩薩来迎図」がある。
かりに、ドローン仏を野外でとばしたら、まるで「来迎図」のような絵になろう。ただし、こうした情景に果たして「ナムい」という気持ちがわきおこるかは、疑問である。
ちなみに、話題の多いジャニー喜多川は高野山米国別院の住職の次男でロサンゼルスに生まれているが、高野山には最高傑作「高野山聖衆来迎図」がある。

人工流星や来迎図などの宇宙的な演出とは裏腹に、いまや宇宙は戦場となりつつある。
「最初の宇宙戦争」と呼ばれたのは1991年の湾岸戦争だ。
米軍は全地球測位システム(GPS)やミサイル警戒などで衛星を有効に活用した。その後の戦争を通じて、宇宙空間と軍事作戦の一体化が進んだ。
近年のアメリカ軍のイラクなどで見る軍事行動も、それまでとは全く異なるものになってきているらしい。
従来、国と国がぶつかりあう戦争では、軍隊というピラミッド型の組織が必要であった。
米軍最高司令官すなわち大統領を頂点とした組織の中で、上意下達の命令ですべて行動が決まった。
ところが9・11同時多発テロが発生した時に、このテの組織が全くといっていいほど機能しなかったために、新たな軍事戦略を構築することが急務となった。
そこでアメリカは、従来のピラミッド型組織を解体し、兵士1人1人が自らの判断で攻撃できるシステムを構築することになったのである。
このシステム変更への第一弾として、2001年10月8日に始まったアフガニスタン侵攻およびイラク進行で、小型衛星通信機を装備した兵士を投入している。
ペンタゴンが解析した情報を、組織の命令系統を経ることなく、直接、前衛にいる兵士1人1人におくり、情報を受け取った兵士は、上官の命令を待つことなく、自らの判断で行動できるようになったのである。
そうした情報が末端の兵士まで瞬時に共有できるようになったので、情報の把握、命令、行動、報告等かつて軍隊という組織の中で行われていたことが、兵士という「個人の中で完結」するようになったのである。
さらに重大なことは兵士一人一人が小型核兵器や化学兵器などの大量殺戮兵器を携帯するようになったのである。
2003年のアメリカ軍の対イラク戦争では、各部隊・装置・兵器・衛星などからリアルタイムで情報を収集し、それを迅速に分析・処理してきわめて効果的効率的に敵をタタクためのシステムを完成させて臨んだ。
アメリカ軍(多国籍軍)のGPSと無線カメラを搭載したミサイルが、精密に誘導されて目標を爆撃した。
現場の戦闘部隊も、全情報を握る司令部からの指令に従って進んでいけば楽に戦闘ができた。
最新鋭の「暗視装置」を持つ多国籍軍にとってみれば、砂漠の闇夜は味方ですらあった。
多国籍軍側の死者は170人ほどで、湾岸戦争に引き続く圧勝といってよかった。
1ヵ月間の徹底した空爆のあと開始された地上戦「砂漠の剣」作戦はわずか100時間で決着し、戦争というもののイメージを根底から覆させられた。
しかしこの大成功がアメリカ軍を大失敗へと導いていった。しかしそれは、フセイン政権を倒すまでの「勝つ仕組み」でしかなかったのだ。
それ以降の占領統治期間の8年半での死者はアメリカ軍を中心とした多国籍軍5000人で、民間契約要員1000人にのぼった。
それまでの戦い方が嘘のように効を奏しないということは明白だった。
アメリカ軍は、高度にIT化されているとはいえ、あらゆる情報の統合・分析と意思決定の時間が数分は必要なので、司令部からの指示が出る頃には、敵も味方も動いてしまい、味方と合流できなかったり、敵軍を見つけられなかったりした。
また市街戦では、遮蔽物や紛らわしいものダラケで敵の装甲車すらうまくは識別しきれなかったのである。
しかも、テロ組織が仕掛けた自爆テロや即製爆弾に対して、無人偵察機も軍事衛星も、無意味であったという。
しかし、アメリカは破滅一歩手前で踏みとどまった。
現場指揮官であるペトレイアス大将自身も、従前の厳格な指揮命令系統をかいくぐって変革を断行していった。
彼の率いる航空師団は2003年、イラク北部最大の都市モスルに駐留しその治安維持に成功していた。
しかしそれは上官の命令を無視し、法の隙を突き本国当局の反対を押し切った「独自施策」を連発してのことであった。
その結果ペトレイアスは左遷されたが、左遷先となった戦場から1万キロはなれた駐屯地での訓練・教育の担当をし、彼はここで新しい組織による「ボトムアップでの変革」を目指した。
試行錯誤の果ての現場の成功例から練り上げられたマニュアルは、インターネットを通じて流され現場の兵士や指揮官から歓迎され、ダウンロード数は最初の2ヵ月だけで200万回を超えたという。
ペトレイアス大将がイラク駐留米軍司令官となって6ヵ月後、イラク民間人死者数およびアメリカ軍死者数は劇的に減少していった。
こうした湾岸戦争やイラク戦争の過程を見てきた中国は、宇宙利用こそが米軍の強みであると同時に弱点でもあると気づいた。
米軍の宇宙システムは、戦時に格好のターゲットになる。そこで衛星破壊の開発に着手したのだろう。
2007年中国がミサイルで自国の衛星を撃ち落としてみせた。これは米国にとって衝撃敵なことで、中国はその後もミサイルのほか、電波妨害や高出力レーザーによる攻撃の研究を進めている。
サイバー攻撃も深刻な問題だ。14年には米海洋大気局のシステムが中国からのサイバー攻撃を受けて故障し、衛星からのデータを一時受信できなくなった。
このシステムは世界の気象や海洋の観測データを集め、米軍にも提供している。
仮に戦争が起きた場合、こうした目に見えない攻撃が行われる可能性が高い。もし衛星の制御システムがサイバー攻撃を受けたら、全衛星が使えなくなる恐れがある。
中国の攻撃能力の向上に米国の防御態勢が追いついていないのが現状で、危機感を抱いている。
紛争を防ぐ最も良い方法は、こうした弱点を克服し、相手にとって魅力的なターゲットにしないことだ。
中国は、経済効果をあげるためにも宇宙利用を使う。
ユーラシア経済圏構想「一帯一路」を進めるため「宇宙情報回廊」を構築すると宣言している。
衛星測位システム「北斗」が気象観測、通信、測位サービスを提供し、関係国との結びつきを強める。「北斗」を使う端末が普及し、関連産業の成長が見込まれる。
トランプ米大統領は、米軍に新たに「宇宙軍」を創設するよう国防総省に指示した。
政府の機構改革や予算は連邦議会の承認が必要だが、実現すれば陸海空の各軍や海兵隊、沿岸警備隊に並ぶ六つ目の軍種となる。
宇宙軍は各軍から宇宙部門を切り離して統合し、空軍とは別の同格の軍にするとみられる。
ところで、宇宙をめぐる米中関係は冷戦期の米ソとは異なる。米ソ両国は、互いの偵察衛星を検証に活用する軍備管理条約を結んだほか、宇宙船をドッキングさせるなど、一定の協力関係があった。
今の米中はそのような関係がない。中国による技術盗用への懸念が米国で深刻化し、民生分野でも協力が進まない。
それでも、宇宙を安定的に利用するには中国との協力が不可欠である。
宇宙ゴミが発生した場合、類似の軌道を周回する全衛星に影響を与える恐れがある。
そのため米国は、中国の衛星に人工物体が接近している際は中国側に通知している。
中国がさらに多くの衛星を運用するようになれば、衝突や電波干渉を避けるための協力が必要になる。
またトランプ政権は、新たなミサイル防衛戦略「ミサイル防衛見直し(MDR)」を発表した。
宇宙にミサイル迎撃システムを配備する計画は、1980年代にレーガン大統領が打ち出した「スターウォーズ計画」の再来と言われるが、名前の割には、案外と地味な戦術をとる。
衛星の軌道を少し変えて他の衛星にぶつけるだけで「宇宙兵器」になるし、宇宙ゴミを除去する技術「粘着剤」も、他の衛星を捕捉する兵器になりうる。
夜空の向こうは、いつも嵐の予感。
そこで、衛星の動きが良い行為なのか、悪い意図を持っているのか、幾多の衛星の行動を把握するために、高度な監視システムが必要となる。