人間は今、テノクノロジーの進歩で宇宙への関心を高めている。富豪のなかには、月や火星へ移住計画でさえ考えている人々もいるようだ。
しかし、その足元地下3000キロメートルに関心を寄せる人は、学者でもない限り多くはないであろう。
しかし、そこは我々の日々の営みを文字通り支えている営みが行われている場所なのである。
さて方位磁石というものは、なぜN極とS極をさすのか。一体どんな力が作用するのか。
磁気の発生メカニズムは、まだ完全に解明されていないものの、地球内部のコア(核)が巨大な「発電機」となり、磁力を起こしていると考えられている。
そのため地球は北極がN極、南極がS極の巨大な「磁石状態」となっているので、方位磁石が北を指すのである。
その仕組みからみると、地球内部は「地殻・マントル・核」の3つの部分に分かれているが、この中で、地球の中心部分にある「核」(コア)というものが、関係してくる。
この核は、「内核」と「外核」に分わけることができる。どちらも主に、鉄やニッケルの金属でできているが、「内核」は固体、「外核」は液体の金属である。
さて電気と磁気の関係といえば、ファラデーの「電磁誘導の法則」というものがある。
ある日、ファラデーはエルステッドが発表した、導線に電流が流れると磁気が発生し、近くに置いた方位磁石が振れるという「電流の磁気作用」についての論文を読み、「電気と磁気の関係」を知った。
その後ファラデーは、電気を流すことで磁気を発生させられるのなら、逆に磁気を発生させることで電気を生むことができるのではないかと考える。
まず鉄の輪にコイルを巻きつけたものを用意し、鉄の輪に磁気を発生させることで、コイルに電気が流れることを確認。磁気から電気を発生させることができるという大発見に至る(1831年)。
ファラデーは継続的に電気をつくるため、試行錯誤の末、U字型磁石のN極とS極の間で円盤を回転させる装置をつくった。
円盤に磁気の影響を継続的に加えることで、電流が流れることがわかり、実験は成功。この装置は動力から電力を生み出し、継続的に電気を供給できる「発電機」の原形が誕生した瞬間でもあった。
地球のコアは、その大部分を占める外核が液体の状態にあり、大変に流動しやすい性質をもっている。
そのため、その周りを覆うマントルの冷却によって「熱対流運動」が起きている。
またコアは金属 (鉄合金) からなりたっているので、電気を通しやすい性質もあわせもっている。
一般に、電気伝導度の高い物質が磁場中を動くと、「電磁誘導」の原理により電場が生じ、電流が流れる。
これこそが「発電機 (ダイナモ)」 の原理で、地球のコアでも同じことが起こっているのだ。
すなわち、磁場中を液体の鉄が熱対流運動することで、コアに電流が流れ、新しい磁場が生み出される。
このような、「磁場+液体鉄の運動 → 電流 → 新しい磁場」という”連鎖”によって磁場が維持される仕組みのことを「地球ダイナモ効果」という。
我々が地表で観測する地磁気の主成分は、コアの「ダイナモ効果」によって作られたものである。
小惑星探査機「はやぶさ2」が探査した「リュウグウ」から興味深いことがわかった。
「リュウグウ」のような水を持った小惑星や隕石によって宇宙から地球の水が運ばれ、さらにその水が水素として地球のコアにも大量に残っているということ、さらに水素がコアの外核を液体にして、その対流運動による電磁誘導作用で地球磁場を発生させていることなどである。
アメリカのレイチェル・カーソンは「沈黙の春」(1962年)で、人類にDDTなどの殺虫剤よる汚染を訴えた。その冒頭は次のような文章で始まる。
「それは奇妙な静けさだった。例えば鳥たちは、一体どこへ行ってしまったのだろう。
人々は当惑し、動揺して鳥たちのことを話した。僅かに見かける鳥は、生きているというよりも死んだようで、激しく震えて飛ぶことはできなかった。それは沈黙の春だった。音がなく、原野を、森を、湿地を静けさだけが覆っていた。
魔法でもなく、敵の攻撃でもなかった。自分たち自身の起こしたことへの償いだった」。
アメリカで2000年以降、美しい蝶の数は 22%減少していることが新たな研究で分かった。
鳥もまた、劇的に減っている。2019年のアメリカでの調査では、「過去50年間で北アメリカで30億羽の鳥が消えていた」ことがわかり、ヨーロッパでも「全体の3分の1の鳥が消滅の危機に」と報じられたことがある。
それはカーソンの言葉を借りれば、"魔法"のような出来事である。
ある研究グループによって、この劇的な減少は、生息地に関係なく明らかであるとしており、天候や土地の利用状況、および生息地の特性の変化などの要因では、全体的な減少を説明することはできないことも判明した。
「生息地に関係なく」昆虫の減少が起きていることが示されたわけで、 農薬も 殺虫剤も使用されていない地域でも、同じように減少していたからである。
なんらかの大規模な要因が関与しなければ説明がつかないのである。
この謎を解明するためには、研究者たちがだした説が、「地球のダイナモ効果」と深く関係している。
地球内部の「発電」によって、磁力線(地磁気)が流れている地球磁場によって、地球のまわりの宇宙空間には目に見えない「磁気バリア」ができている。
太陽風プラズマや宇宙線などの電気を帯びた粒子は地磁気の影響を感じると動きが大きく変化するため、「磁気バリア」の中に入りにくくなっているのである。
この地球の磁気バリアは、どんなに激しい「太陽風」が吹き付けても、絶対に直接地球に到達することができないほど強力なものである。
この磁気バリアに守られた領域は「地球磁気圏」と呼ばれている。
つまり、地球の磁気バリアは、「宇宙線」と呼ばれる、太陽系外からやってくるエネルギーの高い粒子が地球に直撃することも大幅に防いでくれている。
さらに、磁気バリアを通り抜けた一部の宇宙線は地球の大気がエネルギーを弱めてくれている。
このように、我々の住んでいる地上の環境は、磁気バリアと大気のバリアという二重のバリアによって太陽風や宇宙線から守られているのである。
さて問題は、蝶やハトの減少だが、オオカバマダラという蝶は、21年間で 80%減少していて、ハトは、35年間で90%減少してしまった。
彼らが磁場により影響を受けやすいことから、「地球の磁場の弱体化」が原因ではないかと推測されている。
地磁気バリアは、この先も変わらず地球表層を守り続けるのだろうか。
実は1830年代に地磁気観測が開始されて以来、地磁気強度は一貫して低下し続けている。
わずか200年ほど前に始まった観測からだけでは、現在のの地磁気強度の低下が、地磁気逆転の前兆なのか、それとも単なる地磁気の「ゆらぎ」なのかの判別はできない。
それは、人間にとっても重大な影響をもたらす。
蝶もミツバチほどではないものの、花粉を媒介する存在であり、小麦など植物の生育に影響を与え食糧不足に繋がる可能性がある。
以前テレビでアメリカ大陸の蝶々が3世代にわたって南北に移動するのを見たことがある。蝶々は3世代にわたって移動するので、一個の個体が移動する「渡り鳥」とは違う。
北アメリカのオオカバマダラは、1年のうちに北上と南下を行うことが知られている。ただし南下は1世代で行われるが、北上は3世代から4世代にかけて行われる。
オオカバマダラは、産卵がすむとまもなく一生を終えるものの、卵から孵り成長し、成虫になった「次世代」のオオカバマダラがさらに旅を続けるのだ。
これらのオオカバマダラの移動距離はナント約3500kmを世代を繋ぎつつ約3ヶ月で移動する。
この世代を超えた自分の移動ルートを一体、何によって知るのか疑問だったが、体に「地磁気」を感じながら移動すると考えれば説明がつく。
近年、ネイチャー誌に掲載された研究で、昆虫の眼の中(網膜)にある「クリプトクロムというタンパク質の特性」を突き止めたものだが、このタンパク質は、「正確に磁気に反応する」ことがわかった。
そして、この眼の中のタンパク質は、蝶(というか、すべての昆虫類)にも鳥にもあることがわかった。
コンパスのように正確に磁気に対して整列する網膜にあるタンパク質の複合体、すなわち、蝶やハトは、風景を見て移動しているのではなく、
「磁場を見て移動している」ことがわかった。
つまり、彼らの移動や行動は、完全に磁場に導かれていたわけで、当然、これらの生き物は磁場がなければ生きられないのである。
2024年5月、太陽フレアがGPSなどに影響が出るのではないかというニュースがあった。
地磁気バリアは日常生活で実感することはあまりないが、現代社会と密接に関係しており、社会の発達とともにその重要度を増している。
もし地磁気強度が弱まれば、世界の送電線や携帯電話などの通信網、そしてGPSなども大きな影響を受けると考えられる。
現在の「極端に磁場が弱まり続けている状態」の中では気になることがりる。
それは、「地磁気」の南北逆転ということである。
2020年、千葉の市原でみつかって「チバニアン」という年代の呼び方も生まれた。
それでは、地磁気の逆転などという現象が本当に起こりうるのだろうか。実は、現在わかっているだけでも、地球の南北は7回も入れ替わっているという。
地磁気が逆転すると、 停電や電子機器の故障は当然ながら、強烈な日光が降り注ぐ反面寒冷化のすすむ地域もある。
前述のように地磁気は、生物にとって有害な宇宙線を防ぐバリアの役割をしているのだが、逆転すると現在の5分の1程度に弱まると考えられている。
すると太陽からの電磁波やプラズマが大量に地表に届き、電線や発電所に過剰な電流を起こし故障する。
過去の地磁気逆転でも、生物を「絶滅」させるほどの破壊力はなかったようだが、地磁気をたよりに移動する生き物は、我々の想像以上に多く、長距離を移動する鳥やチョウ、サケやカメなどの回遊性の動物、ウシやシカなどの大型哺乳類に至るまで数多く知られている。
さすがに「地磁気の逆転」なる現象が、実際に起こるなどは考えられないが、地球の温暖化がもたらす海流や気流の変化は、年々大規模になってきている。
アラスカやカナダ北岸沖に広がるボーフォート海には、地域特有の風向きと地球の自転によって形成される「ボーフォート還流(ボーフォートジャイア)」が存在する。
これは北極海を時計回りに循環する海流で、海氷や河川から流れ込んだ淡水を蓄える淡水レンズ(海水を含む帯水層の上に密度差によってレンズ状に浮かぶ淡水域)の形成と密接にかかわっている。
北極海における水塊の安定性を維持するうえで欠かせない自然現象であり、北極から遠く離れた北大西洋の海洋環境にも影響を及ぼしている。
そんなボーフォート還流の将来に、スウェーデンとドイツの科学者による国際研究チームが警鐘を鳴らしている。
温室効果ガスの排出が現在の水準で続いた場合、今世紀末までにボーフォート還流に流れ込む淡水が劇的に増加して北大西洋へ一気に放出される可能性があることがわかった。
そんな中、人間の活動が北極圏で活動を活発化しつつあり、そうした現象を加速しつつある。
北極圏には未発見の天然ガスが30%、石油が13%存在するとされ、その多くがロシアの領域に集中しているが、グリーンランド周辺でも資源開発のポテンシャルが高いと見られている。
これらの資源は、気候変動によって永久凍土が溶け始めることでアクセスが容易になり、各国が利権争いを繰り広げている。
気候変動により北極海の氷が溶け、従来のスエズ運河やパナマ運河を通る航路に比べて大幅に短縮可能な「北極航路」が注目されている。
たとえば、日本からドイツまでの輸送では約60%も距離を短縮できる。
特に、グリーンランドを拠点にすることで戦略的なコントロールが可能になるため、アメリカや中国が関心を寄せている。
中国は「氷上のシルクロード」と呼ばれる構想を掲げ、北極航路の主導権を狙っている。
さて、大ヒットしたアメリカ映画「デイ アフター トゥモーロー」(2004年)では、異常気象で、ニューヨークが大洪水に見舞われるが、東京でゴルフボールくらいの雹(ひょう)が降りそそぎ、イギリスではスーパー・フリーズ現象が起き、ロスでは巨大な竜巻が街を飲みこんでいる。
当時、研究者たちは、映画のストーリーは事実に基づいたものではないと述べていた。
ところが、有名な科学雑誌で発表された研究で、映画で描かれた「海洋循環」の崩壊は、当時考えられていたよりも起こる可能性が高いということがわかった。
正常な海洋循環「大西洋子午線逆転循環」は、カリブ海の水を北へ運び、そして北の冷たい水を南に移すことでヨーロッパや東海岸を暖かくするというものである。
しかしこの正常な循環が、地球温暖化により、グリーンランドの氷床が溶けて流れ出した大量の水によって、崩れつつあるのだという。
個人的に海流が潜り込みが起きるというのは、松本清張の「深層海流」という小説であった。
北大西洋ではメキシコ湾流が熱を北に向かって輸送している。
この表層の流れが行きつく先、大西洋の北端にあるグリーンランド南東沖で強い沈み込みが起きている。
もしこの海域に、氷床の溶け水や氷山が大量に流入したらどうなるか。
海水の塩分が薄まって密度が下がり、軽くなった海水近くの沈み込むことができなくなる。
沈み込むが起きなければ、北上する表層の流れが滞って熱の輸送も止まってしまう。
つまり大西洋の北部は急速に寒冷化するという話なのだが、そのような
過去に何度か起きたのだという。
「デイ・アフター・トゥモロー」の冒頭に南極で棚氷が崩壊するシーンがあり、2002年の実際に起きた棚氷崩壊をモチーフにしている。
ただ専門家によれば、映画の中でマンハッタンが氷漬けになるなど、”やり過ぎ”感は否めないという。
旧約聖書に次のような言葉がある。
"わたしにとって不思議にたえないことが三つある、いや、四つあって、わたしには悟ることができない。
すなわち空を飛ぶはげたかの道、岩の上を這うへびの道、海をはしる舟の道、男の女にあう道がそれである"(箴言30章)。
ソロモンの言葉のとうり、確かに自然界の中で動物が通る道筋というのは、不思議という以外にない。
森林の中を移動する動物の道を「けもの道」という。動物はやみくもに森林内を行き来するのではなく、移動しやすい場所が移動経路として踏み固められていく。
実は、「けもの道」という言葉は、「深層海流」同様に松本清張の小説のタイトルから知ったが、海流にも通り道が存在している。
人間の営みが自然界に変化を与え続ける新しい地質年代を「人新世」とよぶが、より具体的にいうと、人間が自然界にある「時」や「道」を変えつつあるということでもある。
人間が可能なかぎりのマッチングを追求する一方で、自然界の方はミスマッチが増加している。
ソロモンが不可思議とした男と女が出会う道も、マッチングアプリのおかげで様変わりしてしまった。