緩和と萎縮

今日本では、「緩和」と「萎縮」の奇妙なフュージョンが流れているようだ。
経済では「規制緩和/自由化」が進み、政治では「一元化/統制」がすすむという事態となっている。
いずれもグローバル社会への対応として回りはじめた両輪だが、そのチカラの相対関係がこの日本の方向性を左右するのではないか。
具体的にいうと、緩和要素のアベノミクスと統制要素の強い「特定秘密法」に、いくつかの「共通点」があることに気がつく。
第一に政府(および日銀)の「裁量度」の高さである。
高い専門性に一般国民の手が届かない分、第三者的「チェック機能」が必要だが、ソレが仕組まれていく気配が見えナイということである。
ただし、アベノミクスの場合には、最終的には「市場」がチェック機能を果たすことになろうが、結末が「混乱」ではどうしようもない。
具体的には、「金融緩和」は日銀マカセでやって当面うまくいっていて、「特定秘密」の指定も政府マカセでやるが、それが暴走しないか。
そしてマネーは流れ続け、情報はシメツケが強まる。
金融緩和はいつかインフレに転じないか、情報統制はイツカ「監視社会」を生み出さないか。
そういう気配は、両者の「心理効果」のウェイトの高さにも関わってくる。
前者は「期待」に訴えかけ、後者は「不安」に訴えかける。
だから、前者は「拡張」、後者は「萎縮」の心理効果としてハタラクという違いがある。
今のところ「特定秘密」に経済情報は特断含まれず無関係なようであるが、鴨長明の「方丈記」にでてくるように「景気」とは景色の空気なのだそうだ。
「景気は気から」とイウとおり、情報統制で生まれる「監視社会」がもたらす社会の空気は景気と関係ナイとはいえない。
第三に、金融緩和をいつどうヤメルか、「特定秘密」をイツどう解除するかといった「出口問題」の存在が浮上している。
さて、アベノミクスの第一の矢は、異次元の「金融緩和」であったが、先月ようやく消費者物価上昇1パーセントというデータが出た。
金融緩和は、物価上昇「2パーセント」を数値目標としているので、金融緩和はシバラク続くとみてよい。
では「2パーセント達成」以降はどうか。
アメリカのケースを見て、この「出口」にアヤウサがあることを知った。
行きはヨイヨイ、帰りはコワイということだ。
また特定秘密の解除は、過去を検証する意味でも絶対必要なことである。
しかし原則60年で「解除する」といっても、関係者が墓場マデ持っていかざるをえないような「極秘」というものがあって、そういうものはソモソモ「特定秘密」にさえ指定されないであろう。
なぜなら、秘密であることが秘密なのだ。
「秘密解除する」ことが政府不信をマネクか、混乱をマネクならば絶対に解除されないとみてよい。
アメリカの民主主義には政府を信用しないという伝統があって、国民が政府を常に監視しなければならないという意識が強い。
したがって、国民の「情報開示」への欲求は高い。
具体的には「2036年の真実」のように、ケネディ大統領暗殺の真相サエも明かされることになっている。
一方、日本で、戦後まもなく起こった三鷹事件・松川事件・下山事件のように、真実が永遠に「封印」されたかと思える事件がある。
さて、アベノミクスの出口問題はどうか。
物価上昇2パーセントを達成するソノコトよりも、「物価上昇2パーセント」期待を国民に定着させることが主眼だといってよい。
マイルドな物価上昇は、オカネを手元においておく(機会)費用を増すこととなり、自然とオカネマワリをよくするからだ。
またハヤメ早めにモノを購入しようという誘因もはたらく。
つまりマイルドインフレは将来の増税時と同じようにユルヤカにタエズ「駆け込み需要」をつくりだす。
そこでオープンマウスオペレ-ション(大口たたき作戦)で、人々の「期待」を喚起させてきた。
今のところソレガ効を奏し、様々な実体を示す「経済指標」が好転している。
ただ物価上昇が必ずしも「購入意欲」の向上によるものではなく、円安によるコスト上昇が物価をあげていることが気になる。
つまりこの間に実質的に賃金はあがっておらず、生活の豊かさに繋がっていないということだ。
また、物価が上が長期に渡ってアガルことは、「長期金利」への影響などを考えるとのぞましくない。
そこで安部政権では、「労使の対話」の場ををもうけて賃金アップ(収入アップ)をはかろうという試みもしている。
またシバラク前に、大手の銀行などでベア・アップの話が新聞にでていた。
最近、アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)が、リーマンショック以降続けてきた異例の金融緩和策の修正へと踏み出そうとしている。
アメリカ経済の「好転」が背景にあるが、それでも人々は金融緩和の「出口」に不安を抱いてきたが、量的緩和策の縮小が緩やかで、金融引き締めはマダ先になるという方針が明らかとなったた。
ゼロ金利政策の解除も急がず、ニューヨーク株式市場などの株価が上昇している。
為替市場では、米景気回復を背景に、ドル買い圧力が強く、ドル高・円安傾向が続きそうで、日本には良い経済環境が生まれている。
一方、アメリカの金融緩和策により、過剰マネーが世界を駆け巡り、米国だけでなく、新興国などでも「資産バブル」を引き起こす副作用が懸念されてきた。
今後の焦点は、来年以降、FRBがどんなペースで「量的緩和策」を縮小していくかである。
FRBは雇用などのデータを見ながら「小幅」の縮小を続けるとしているが、具体策は不明である。
また新興国からの資金がアメリカへ「還流」しているという。
市場における混乱が大きくならないように、縮小を円滑に進めることが重要になる。
アメリカのこうした出口政策は、日本でもメグッテ来る。
さて4月の消費税アップだが、駆け込み需要が消えた後がどうかでアベノミクスの「真価」が問われる。
つまり、日銀が買いダメした長・短期の国債をどういうタイミングで「売る」かだが、景気が下降状態に戻ってしまってからではそのタイミングを失う。
だからといって「景気が良過ぎる」時に、国債売りで景気を「反転」させるのもバブルがハジケた時ような市場の混乱が起きうる。
要するに金融緩和を打ち切る「出口戦略」は、原子炉の廃炉ホドではないにせよ、ソノ道のりは長く見通しがキカナイものである。

ここ数年、尖閣諸島や竹島問題、歴史認識をめぐって日本と中国・韓国の対立が深まっている。
そのため現在「情報漏洩」に関する脅威が今までになく高まっているのは確かであろう。
次のような内容の記事がネットにのっていた。
「潜水艦技術」において日本製はエンジンやスクリューの音が静かで、ソナー(水中音波探知機)技術は世界でも一、二を争うほど優秀である。
一方、中国の技術はは未熟で、雑音が多くて探知されやすい。
つまり現状では、量的な問題で中国が優っていても、実際の海戦では日本のほうが圧倒的に有利だという。
その差を埋めるため、中国の諜報部員たちは日本の「潜水艦技術」に関する情報を血眼で集めている。
海上自衛隊の乗員はもちろん、造船所など防衛産業の従事者もその対象となっている。
現在、日本で潜水艦を製造しているのは三菱重工業神戸造船所と川崎重工業神戸工場のみで、点検・修理で数か月にわたって艦がドックに入ってしまうこともあるため乗員らも近辺に滞在する。
潜水艦に関わる人材や知識のほとんどが、神戸に集中していて、その神戸の夜の街で、関係者に中国人女性が不自然に近づくケースが頻繁に報告されているという。
特定秘密法の必要性というものは、こういう現場の「現実」を知れば知るほど、その必要性を思わせるものがある。
日本はしばしば「スパイ天国」といわれてきたため、自衛隊の保有する武器の性能や重大テロが発生した場合の「対応要領」などの情報はマスマス「極秘化」が求められている情勢にある。
ところで、今でも公務員には「守秘義務」のように、秘密を守らせる法律がアルにはある。
しかし、それでは不十分で、ある「特定」の情報を漏らした場合には「厳罰化」をすることによって、漏れを防ごうというものである。
では、ある「特定」の情報とはナンなのだろうか。
一応、現状でも「特別管理秘密」というものがある。
コレは、政府共通の基準として2009年4月に試行された制度で、外交や安全保障に重大な影響を与える情報について、保管場所を指定し、一定期間ごとに状況を点検することにしたものである。
各省庁が保有する「特管秘」の総数は、2012年末現在で約42万件にのぼるという。
新法成立により、内閣官房が今後定める統一的な運用基準に基づき、各省庁ごとに指定することになる。
特定秘密法では、この「特別管理秘密」を「特定秘密」に移行させ、情報漏洩を「厳罰化」することにより、今までよりも管理を厳しくするものだという。
政府の説明では従来の秘密の一部を「特定化」して「移す」ダケなので「秘密の範囲」が広がる心配はナイという。
自民党のホームページで「特定秘密」の対象を見ると、(1)防衛に関する事項(2)外交に関する事項 (3)特定有害活動の防止に関する事項 (4)テロリズムの防止に関する事項に分類し、別表で「各項目」ごとにソノ細目があがっていた。
例えば(1)防衛に関する事項の中で その細目のヒトツとして「潜水艦のプロペラの材質又は形状、潜水艦の潜水可能深度や戦車等の装甲厚・誘導弾の対処目標性能など」とあった。
そういえば過去に、東芝の共産圏へ輸出した技術が「潜水艦の雑音」を減らすのに使われる可能性があるため、「ココム違反」となった事件が起きたことを思い浮かべた。
コレ素人では判らないが、国防の視点からすれば、重大な問題なのであろう。
要するに「特定秘密法」の一番の問題点は、「情報の非対称性」ということを思わせられる。
情報を秘守する側は、何が秘密なのか自らは熟知している、というよりその「指定」または「解釈」の裁量権を握っているが、それを知ろうマタハ接しようとする側は、秘密の内容がどこまで判らないので「自制」が働くということである。
これは、経済学でいうところの「情報の非対称性」がもたらす取引の萎縮ツマリ「市場の不成立」と同じように、情報アクセスへの「不成立」としてハタラキ「情報のヤリトリ」全体が萎縮していくということなのだ。
具体的にいうと、報道機関による正当な「取材行為」は処罰対象とはならないといっても、特定秘密に「ほのかに」関わることでも、公務員の側が厳罰とされるならば、実質「取材お断り」となる。
そもそも「正当な取材行為」の解釈は、政府側がすることである。
「厳罰化」が取材対応にどんな影響を及ぼすか。
首相官邸からすでに厳しいシメツケをしてきたので特段「変化」はナイとしてるが、取材への対応をはじめ、かつて「確信的」に対応していた公務員が口をツグム方が得策と考えるようになるのはまちがいない。
要するにメディアは「政府発表」しか書けなくなり、こうして政権維持にとっては、都合のイイ法律ということがいえる。
ところで「何が秘密か」は、行政機関が「運用基準」にソッテ行政機関が決めることになるが、今「アーキビスト」という仕事が注目を集めている。
「アーキビスト」の名は「アーカイブ」(公文書の保管)の名からきていて、「何が秘密で何が公開できるか」につき、彼らの迅速な判断と経験が、特に国会開会中などでは重要な役割を果たすこととなる。
そして日本ではこの「アーキビスト」をアメリカ並みの「国家資格」とすることが取り沙汰されているという。
彼らは「何を出し、何を隠す」かを一定の運用基準にのとって判断し、ある特定の情報につき「黒塗り」の文書を提示することになろう。
ところで金融緩和は、人々の日々の活動への「拡張効果」をもたらすのは「期待」に働きかける。
一方、特定秘密法は人々の日々の情報活動に「萎縮」を与える可能性が高く、それは或る意味、現政権にとっては都合のイイ効果をもつといえる。
財政における会計検査院のようなものではマッタク意味がなく、「特定秘密」ノ解釈や廃棄までを審査する「第三者機関」の設置が必要とされるのが、それについてアマリ積極的な動きはないようにみえる。
また公務員の「適性検査」などというのも、社会の「萎縮効果」に拍車をカケルものではなかろうか。
公務員の適性検査とは(1)テロリズムとの関係(2)犯罪歴(3)情報の取扱いに係る経歴
(4)薬物濫用(5)精神疾患(6)飲酒(7)信用状態をみるらしい。
また調査対象は、評価対象者の家族や同居人にも及ぶ。
またさらに、防衛装備品を製作する企業等が行政機関と契約し、特定秘密の提供を受けた企業の社員をも「適性検査」の対象になるのだそうだ。
政治活動や個人の思想・信条は「調査事項」に入らずといっても、それは「採用側」が裏でどのようにでも「運用」できることであり、その適否は誰もチェックできない。
こうした公務員のフサワシサの選別にも、社会の空気に「萎縮」をもたらす可能性が高いということなのだ。

我々は、新しい法律が出来る時、ソノ法律が社会にどんな影響があるのか全貌を見渡せないことが多い。
そこで、歴史に学ぶ必要がある。
かつて治安維持法は、1925年に普通選挙法と抱き合わせで成立した。
そして3年後には改正され最高刑に「死刑」が加わった。
政権や社会情勢が変われば、一度成立した法律は、本来の意図ヤ趣旨を超えて運用されることがある。
「憲兵」はモトモト軍の取締りをするものとして設けられながら、ある時期以降は一般国民を「取り締まる」役割を果たすことになる。
安倍氏が「一般市民は巻き込まれないので大丈夫」とはいっても、情勢によって法の適用が変ることは、現憲法下で「集団的自衛権」を認めようとしていることに典型的に表れている。
戦前にまで溯らなくとも、身近なところでは1985年に「労働者派遣事業法」が出来た時に、ナカナカその影響力を推し量ることができなかった。
当初から労働者の雇用安定保障を目的とした「職業安定法」のホネヌキだと懸念はされていた。
実際、当初専門性の高い16業務に限られていたが、96年のは26業務に拡大され、さらに規制緩和の名の下に「派遣対象」を原則として自由化しようという流れが強くなった。
職域の拡大が派遣労働者の労働者の賃金水準を押し下げたために、ホネヌキはほぼ完成したといってよい。
そして日本に多くのワーキングプアを生み出していったし、「格差社会」の根源の一つともなっている。
結局、我々が歴史に学ぶことは、法律の中でとくに「悪法」といわれるものは、「小さく生んで大きく育てる」方向にすすむ傾向があるということである。
また「アベノミクス」についても、前例のない社会的実験の途中にあるといえよう。