超能力とスタップ細胞

先日(4月1日)のスタップ細胞調査委員会が小保方さんの論文に対する最終報告を発表した。
驚いたのは、あまりに調査結果が早かったツマリ前倒ししたことと、コノ問題を小保方さん一人の「不正」に帰しようとしたこと。
さらには、日本が誇る理研のユニットリーダーともあろう人の論文やデータの扱いの初歩的ミスである。
最終報告に対する小保方氏の記者会見(4月9日)では、まったく客観的証拠を示さず疑惑を晴らしてはいないが、スタップ細胞の「実在性」を強く主張した。
理研の一方的な「断罪」とマスコミ報道の異常変異からしても、小保方さんが以前と同様に研究に復帰するのは、かなり困難な気配がある。
そのため、研究者同士の嫉妬や自己保身やマスコミのバッシングによって一人の可能性のある研究者を失う結果になることを危惧するのである。
一日も早く正常な研究が出来る状態に戻して、スタップ細胞の「客観的証拠」を示すことを願う。
というのは、個人的にコノ問題につき過去に起きた二つの事件との「類似性」を感じたのだが、ソノ二つの事件とも「主役」は自ら命を絶っているからである。
その二つの事件とは、まだ記憶に残る民主党の永田議員による「ガセ・メール事件」と、明治時代に起きた「千里眼事件」である。
10年以上も前に起きたいわゆる「ガセメール」事件で、功名心に欲に過ぎた若い国会議員とその国会での質問内容につき、「ウラ」を十分にとることを怠った永田議員と、その質問を許した民主党のチェック体制の甘さが指摘された。
今回の小保方氏と「スタップ細胞論文」の不備に対する理研のチェック体制の甘さと重なるものがある。
「ガセメール」事件では、堀江氏の衆院選出馬に関して、当時の自民党幹事長の次男に対し、選挙コンサルタント費用として数千万円の振込みを指示したメールが存在するとして、民主党・永田寿康議員が、と国会で追求したものである。
しかしこの「堀江メール」は、永田議員がいわゆるブラック・ジャーナリズムから入手した(または、つかませられた)「ガセメール」であることが判明した。
永田議員に対するチェックの甘さを露呈させさせばかりではなく、永田議員が「堀江メール」の実在を擁護し続けた民主党のへの信頼を一気に低下させる結果となった。
永田議員は北九州の資産家に生まれ、東大工学部を卒業し客室乗務員と結婚し、結婚式は千葉マリン・スタジアム球場を借りきって行い「寿」という人文字をつくり、航空写真で撮らせるなどドハデなものだったという。
若くして国会議員に当選し、そして最も脚光を浴びるハズの代表質問の舞台に立つ事ができた。
その結果、政治の信頼を著しく失わせしめる「勇み足」を犯したため、懲罰委員会にかけられる前に辞職した。
再度、立候補しようとしたが民主党から相手にされず、親族の選挙区からの立候補もカナワなかった。
その後も親族関係の会社で仕事をしたがどれも長続きせず、離婚問題や入信していた宗教団体とのトラブルなども重なり、次第に精神に変調をきたすようになったという。
永田議員は2009年1月に親族が経営する北九州の病院から飛び降り自殺している。
ちなみにこの年に、民主党政権が実現しているのは皮肉な話である。

山川健次郎は、NHK「八重の桜」に登場した会津藩士・山川大蔵の弟である。白虎隊に属し賊軍となった。
そこで官の世界では出世は無理で、学問(物理)の世界で身を立てようと、最終的には東京帝国大学総長になった人物である。
こういう敗戦や流托の身から、必死の努力で学門の世界の頂点にたったのだから、シベリア流刑からビジネスの世界で頂点に立った瀬島龍三のような人生の歩みに夢を感じさせるものがある。
しかも山川は、東京帝大総長を三度、京都帝大学長、九州帝大学長と三つの帝国大学の総長を経歴とした空前絶後の人物である。
その間に、私立専門学校である明治専門学校(現・九州工業大学)校長の経験もある。
明治専門学校は、北九州の炭鉱王・安川敬一郎が建てた学校だが、そこに「三顧の礼」で迎えたのである。
というわけで山川は会津生まれでありながら、九州とも縁のある人物だった。
そして山川が九州と関わりをもったもうひとつの出来事が、熊本の千里眼をもつといわれた女性・御船千鶴子との関わりであった。
ちなみにこの女性は、鈴木光司原作の「リング」の山村貞子の母親のモデルとなった女性である。
日露戦争時に第六師団が、撃沈された軍艦・常陸丸にたまたま乗っていなかった事を透視したり、三井合名会社の依頼で福岡県大牟田市にて透視を行い、万田炭鉱(熊本県荒尾市)を発見して謝礼2万円(現在の価値で約2000万円)を得るなどした。
今は、「超能力」は軍事目的や犯罪捜査にも研究され実際に使われてもいるのだが、日本ではまともな科学の対象とみなされてはいない。
ところが、明治期には、意外にも「超能力」を科学の俎上に乗せようという動きがあったのである。
しかしこの「千里眼事件」がきっかけで、日本では「超能力」というものが科学の対象から遠ざけられるようになったフシがある。
実は、小母方氏の「捏造疑惑」についての反論記者会見をテレビで見たときに、思い浮かべたのが「千里眼事件」の顛末だったのである。
「STAP細胞疑惑」と「千里眼事件」の共通点は、STAP細胞が存在するのかしないのか、「千里眼=超能力」が実在するのかしないのかという問題につき、日本のハイレベルの学者を巻き込んだ論争となった点である。
そしてマスコミによる持ち上げとブーム、それから一転してのバッシングへと転ずる経過や、そして真偽について第三者の立会いのもとで「公開実験」が求められていることなどである。
今や、スタップ細胞の存在そのものが怪しいという見方もでている。小保方さんはスタップ細胞作成に200回も成功したというが、いまだにそれに成功したひとがいない。
しかし、小保方さんの実験ノートはタッタ「2冊」で、それだけけでは作製のプロセスを「検証」することさえできない。
また、割烹着姿の彼女いうところの「レシピ」(その表現に少々驚いた)にそって作成すれば作成できるの、イマダに小保方さん以外にはSTAP細胞を見た人がいないのである。

熊本に住む御船千鶴子(24歳)は、密封した封筒に名詞を入れて渡すと、それらを上から手でさすったり、封筒を額にあててしばらく思念をこらしたりするうちに、その内容をあてるといわれた。
そのうちに病気の診断や治療までするようになり、地元ではかなり評判になっていた。
22歳のとき、陸軍中佐・河地可謙と結婚。ある日、夫の財布からなくなった50円が姑の使っていた仏壇の引き出しにあると言い当てたことで、姑は疑いをかけられたことを苦にして自殺未遂を起こしてしまう。
このことで結婚からほどなく離婚することになり実家に戻っている。
さて、彼女の能力に強い関心を寄せたのが、京都帝国大学の今村新吉博士と東京帝国大学の福来友吉博士であった。
というのも、福来の教え子であった熊本工業学校の男性教師が、御船千鶴子が優れた透視能力を発揮して「千里眼」と言われているという話を聞いて簡単な実験を行ない、その結果を福来に報告していたのである。
当初、福来は教え子の研究成果を横取りするつもりもなく気に留めなかったが、旧制熊本県立中学済々黌校長がレベルの高い実験を勧めたために自らも実験することになった。
今村博士と福来博士はそえぞれ何度か熊本を訪れ、何度も彼女の能力を試した結果疑い得ないということになり、彼女を東京によび、公開実験を行うことになった。
多くの学者が立会い、その中には東大を退任してまもない山川健次郎もいた。
そして山川はエール大学留学中に、一人の学生に透視能力者が現われ、学生仲間で実験したところ、何の疑いもなく透視能力があることが確かめられたのである。
したがって山川は、この公開実験をウサンくさいものとみたのではなく、真摯にその「実験方法」につき設計を行ったのである。
山川は提案した実験方法は次のようなものであった。
名刺一枚に法律書からランダムに抜いた「三文字」を記したものを20枚を作る。
これをそれぞれ鉛管にいれ、それをハンマーで平たく打ちつぶした上、両端をハンダで密封する。
この中からどれでも一つ選んで透視してみよというわけだ。
これだけ手が込んだことをしたのは、X線や放射線による透視ができないようにしたのである。
もちろん盗み見は不可能である。
御船はこれをもって一室に屏風をたてまわしてその中に正座した。
しばらくすると屏風の中から「判りました」という。そして一同が御船が透視した文字を見ると、「盗丸射」と書いてある。
直ちに透覚物を取ってその端をノコギリで切り開き、中を開けると確かに「盗丸射」と書いてある。
みなが驚きの声を上げると、しばらくして山川が不思議だといいいはじめた。
自分が書いて透覚物にいれた文字の中には、「盗射丸」という文字はなかったはずだという。
覚えのためにメモしていた紙片を取り出してみると、「盗射丸」はおろかそれに似た文字さえない。
これは福来助教授があらかじめ山川から実験方法を聞き、練習のために同形のものを渡したものが、ナゼカ「混入」していたのだという。
つまり「盗射丸」は福来が書いたものであった。これではだめだと山川が書いたもので実験したが 、これでは一枚も成功できなかったのである。
日をあらためて「西洋封筒」に任意のも文字を書いたものをいれたものを渡すと、御船は精神集中のために別室にこもり、今度は別の博士が書いた文字「道徳天」を当てることができた。
山川は以上の結果から御船に「透視能力」があるかないかを断定することはできないとした。
そんな中、御船はもうひとりの超能力者といわれた香川の長尾郁子の「念写」を非難する記事を見て、失望と怒りを感じ「どこまで研究しても駄目です」と言い放ったという。
そして1911年重クロム酸カリで服毒自殺を図り、翌日未明に24歳の若さで死亡した。
山川健次郎はあらためて熊本で実験しようと準備していたが、それを果たせないうちに御船が自ら命を絶ったのである。
また東大の福来博士は、御船千鶴子・長尾郁子をはじめとして、彼が取り上げた人物以上に「イカサマ師」「偽科学者」などと攻撃を受けることになり、東京帝国大学を辞職した。

今度のスタップ細胞疑惑のキーマンに、理研の副センター長・笠井芳樹氏という人物がいる。
小保方さんの論文の「共同執筆者」に名前をつらねている人で、小保方さんの実質的指導者である。
実はこの笹井氏がES細胞の発見により、山中氏がiPS細胞の開発に成功するまでは、「大スター」であったのだ。
笹井氏と山中氏の二人は、ともに62年生まれの細胞研究者として交流があった。
山中氏は04年に京都大学再生医科学研究所の教授に就任していたが、笹井氏はそれより6年早い98年に、36歳の輪川で同研究所の教授に就任している。
この時期は、笠井氏の方がズット格上であった。
その後、笹井氏は理化学研究所に移ることになるが、そこにはノーベル賞候補の竹市雅敏氏がいて、笹井氏は竹市氏の後継者として期待されていた。
しかし、予想外の「逆転」がおきる。
山中氏がiPS細胞の開発に成功し、研究の最先端はES細胞からiPS細胞へ転換する。
神戸大医学部出身でジャマナカとよばれて遅れて研究の道にはいった山中氏が「大逆転」するのである。
そして昨年10月山中氏がノーベル生理学賞を受賞し、その差は決着したかに思えた。
そこに登場したのが、笹井氏指導下にある小保方氏の「スタップ細胞」である。
ここで整理すると、ES細胞、iPS細胞、細胞はいろいろな組織に変異するまえの肝細胞で、「万能細胞」という点で共通している。
ただ、ES細胞は、受精卵から受精卵を操作したり壊したりして取り出す「倫理的問題と」、それれは他人の細胞ので通常の臓器移植と同じく「拒絶反応」の問題があった。
それに対して、iPS細胞は自分の皮膚や血から細胞をとり、特別な遺伝子を加えるとできるで、ES細胞がもつ問題点をクリアできる。
さらにSTAP細胞は、毒を与えたり、熱したり、飢餓状態にしたり、細いガラス管に通すなどの外部的刺激でできるので非常に簡単にできる。
なかでも、弱酸性の液体に25分浸すだけで「初期化」がおこる。つまり様々な組織に分化する以前の細胞(幹細胞)に変身するという画期的なものだった。
そして、理化学研究所は、民主党政権時代に、「事業仕分け」によって大幅に削減された苦い経験がある。
そして再生医療の分野で巨額の国家予算が投入されているが、笹井氏はこのままでは自分達の研究に回る予算がなくなるといった危機感からくるアセリを感じていたのではなかろうか。
個人としても山中氏に先をこされ、自分の研究の予算を削られる。
そこに現れたのが、小保方さんとSTAP細胞であった。十分な論文ではないとわかったはずだが、これでもって突破しようとした。
研究費が増え自由の使える「特定国立研究開発法人」への組織替えにも、大きな「打ち上げ花火」が必要だった。
そして小保方氏の割烹着姿やピンク色の研究室もそんな笹井氏のプロデュースだったという。
ところで、スタップ細胞調査委員会の「捏造と不正」の発表が当初よりも1月も前になった理由はことにつき、国民の不信にすみやかにこたためそれ以外に理由はない」と答えた。
しかし、結論が拙速であることは否めない。理研が安倍氏の成長戦略の中で「特定国立研究開発法人」になるための上限が4月上旬だったという。
それが実現するために、理研は「小保方氏一人の不正」にして、ことを終息させたかったのではなかろうか。
ところが小保方さんは、調査報告書を受け取り「驚きと憤り」の気持ちで一杯だっとと語っている。
驚いたことは、調査委員会の「論文の捏造/不正」の指摘に対して理研はじめ共同研究者が、小保方氏を一切守ろうとせず、「チェックや管理の不徹底さ」をいとも簡単に謝罪したことだ。
そんなに簡単に謝れるのなら、最初から「不十分」さや不備を知った上のことではなかったかとサエ思われる。
そして「論文の撤回」を妥当とする調査委員会の報告に賛意をしめすのである。
ただ小保方さんにとっての「救い」は、彼女を指導したハーバード大学教授が、スタップ細胞の存在を否定されたわけではなので、論文の撤回は必要なしと言ったことだ。
また、笹井副センター長も、改ざんや捏造とされたデータを除いても、STAP現象が存在すると考えないと、実験過程で観察された様々な現象を説明するのがむずかしいといっている。
つまり、「スタップ現象は存在する」ということを言っているのである。
この研究は、追試験が簡単なものではなく「職人芸」のノウハウが必要で、真偽がたしかめられるには、さらに長い時間が必要だそうだ。