ありのままのメシア -寄道話-
(第一話、第一章。その後)
・すれ違う男と女
(ソフィスタ視点)
メシアとの同居生活が決まった。
このトカゲ、人間とは違った環境に生まれ、今まで生きていたらしい。文化の違いによる差は、食事中に既に目の当たりにした。
文化の違いとか関係なく、非常識な性格をしているけど、とにかく、コイツには人間社会で生活していくのに必要な常識を叩き込まなければいけない。
さて、何から教えようか。
居間のソファーに座って悩んでいると、何が珍しいのか食器棚を観察していたメシアが、あたしのほうを振り返って、こう言った。
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(メシア視点)
ソフィスタとの同居生活が決まった。
人間の家に入れてもらったのは、これで二度目である。私にとっては、やはり珍しいものが多い。食器棚を見るだけでも、人間との文化、環境の違いが、はっきりと分かる。
これから人間と共に生活していくのに、人間にとっての様々な常識や規則を勉強する必要が、私にはあるだろう。
だが、何から学んでゆけばよいものやら。
居間として使われている部屋の食器棚を観察しながら、そんなことを考えていると、不意に、ある感覚に襲われ、すぐ傍で柔らかい椅子に座っているソフィスタを振り返り、私は言った。
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「ソフィスタ。用を足す場所はどこだ」
霧の中に隠れていた越えるべき関門が、その姿を現した。
…………そうか。
考えてみれば当たり前のことか。物を食って出すという行為は生物共通なのだから。
食べることと共に教えなければいけないのは、出すことに関する人間の常識だ。
食後にこんな話はしたくないけど…出るものは出ちまうわけだし、仕方ないか。
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まず学ぶべきことは、尿意と共に明確になった。
排泄行為は、生物共通の生理現象である。人間だって例外ではない。
知能の高い生き物であれば、定まった場所で排泄を行い、清潔さを保っているはずだ。我々だって、そうであるし、以前入った人間の家でも、そうであった。
食事の後に、こんな話をして悪いが、仕方あるまい。出るものは出るのだ。
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「…ああ、トイレのことね」
「トイレ?」
「あんたが言う、用を足すための設備のことを、あたしたちはトイレって呼んでるんだ。トイレなら、家の中にある」
「家の中に?…そうか」
「家の中にある」って聞いて、コイツは少し驚いたようだ。このトカゲの故郷では外で垂れ流しているのか?それとも、外にトイレの個室があるのか?…まあいいや。後で考えよう。
あたしはソファーから立ち上がった。
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我々の故郷では、排泄を行う設備は、家とは別の小屋の中にあった。以前寄った人間の家でも同じように外にあったし、使い方もほとんど同じであった。
だが、この家のものは違うようだ。せめて使い方が同じであればよいのだが…。
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「それじゃあ、案内してやるよ。…ところで、あんまり聞きたくないことなんだけどさ…」
トイレって単語を知らないからには、トイレの使い方も知らないかもしれない。それを考えると、聞かなきゃいけないことがあった。
メシアは「何?」とばかりにあたしを見る。あー言いたくないし聞きたくもない。
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ソフィスタは立ち上がり、そう言って私を見た。私も彼女を見つめ、次の言葉を待つ。
しかし…あまり聞きたくないこととは、何のことであろうか。私にとっても、あまり答えたくない質問か?
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「その…大と小、どっちだ?」
「…は?」
聞き返すなよ!二度も言いたくないんだけどなあ…仕方ない。
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私は、思わず聞き返してしまった。大?小?何かの大きさを尋ねているのだろうか。
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「だからぁ…出すのは大きいほうかどうか聞いてんだよ」
「ええええっ!?」
メシアが、あんまり大袈裟に驚くもんだから、こっちまでビビって肩が震えた。
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出すのはって…尿を出す体外器官のことを指しておるのだな。それが大きいほうかどうかというと…!
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「そ・そんなことを聞いてどうするのだ!」
うむむ…人間に男特有の体外器官の大きさを問われるとは…しかもこんな少女に。
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「そりゃ、大と小じゃ、出てくる所が違うからな」
は?まさか人間は、大きいか小さいかで尿などを排出する所が違うのか?
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「いや、同じのはずだが…」
「えぇっ!?」
コイツの種族って、大も小も同じトコから出てんのか!?
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ずいぶん驚かされたようで、ソフィスタはすっとんきょうな声を上げた。…やはり、大きさによって排泄方法が異なるということなのだろうか。
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「普通なら大と小で分かれてるだろ!違うのか!?」
「分かれて?ああ、確か我々の祖先は分かれておったそうだ」
祖先はって…。元々は人間と同じように、前と後ろで出す場所が分かれていたのが、進化の過程で同じ所から出るようになったってことか?それって退化してなくない?一体どんな進化を遂げてきたんだ、このトカゲは。
…まさか、実はこのトカゲの種族、遠い昔は人間だったのが、突然変異か何かでトカゲの姿になったとか…。いや、でも、そのへんのトカゲだって、出す所は二つに分かれてるよな。ちょっと考えすぎたか?
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故郷の本で読んだことがある。遠い昔、我々の祖先が体外受精により繁殖を行っていた頃は、男特有の体外器官が二つに分かれていたと。
ソフィスタは「普通なら大と小で分かれてる」と言ったので、どうやら人間の男のものは、二つに分かれているようだ。
だが、今の人間も体内受精を行っているはず…なのに我々のように進化しておらぬのか?それに、大と小に分かれているとは…。人間は、一体どのように進化していったのだろうか。
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「でも、どこから出すんだ?後ろ?前?」
あんまり生物学的におかしいもんだから、つい聞いてしまう。同じ所から出るなら出るで、トイレの使い方も変わるだろうし…ホント、食後にこんな話はしたくないけど、聞いておかなきゃ。
そしたらこのトカゲ、とんでもないことをキッパリと答えやがった。
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後ろ?前?…器官は体の正面側に備わっているのだから、前から出てくるのは当然ではないか。
私はキッパリと言ってやった。
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「前に決まっておろう」
ゲッ!…後ろならまだしも、よりによって前から?前から大も出てくんの!?あ、ありえねぇ…。
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その当たり前のことを答えただけというのに、ソフィスタは「ゲッ」と嫌そうな声を上げて驚きおった。私だって、こんな話はしたくない。
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「…で、大?小?どっちだ」
とりあえず、今はコイツに正しいトイレの使い方を教えるべきだろう。調べるのは、まあ、そのうち気が向いたらに…。
そう思って、質問を戻した。
メシアは目線を落とし、そしてあたしへ戻した。恥ずかしそうな顔をしているが、こっちだって、こんなヤなこと聞きたくなかったんだ。
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ソフィスタは、質問を戻した。…そんなに気になるのか?私のものが大きいか小さいかに…。
答えることは恥ずかしいが、そんな恥ずかしいことを聞いてくるからには、それなりに理由があるのかもしれん。仕方ない、答えるとしよう。
私は、つい目線を落としてしまい、どこを見ているのかソフィスタに悟られまいと、慌てて彼女へと視線を戻した。
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「…その…幼い頃なら、同じ年頃の者と大きさを比べたことがあった。その時は…わ・私のほうが、小さかった…ような…」
比べたって…大のほうの大きさをか?バカかこいつ!そりゃ男のガキってのは、そういうこと好きかもしれないけど…あたしにゃ信じられん。
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友達と一緒に水遊びをしていた時のことだ。幼いならではの無邪気な出来事だが、だいぶ成長してからは比べたりなどしておらん。
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「子供の頃の話なんか聞いてねーよ。…とにかく、大のほうだな?」
「いや、今はどうだか分からん」
「はあ?自分で小なのか大なのか、そんなことも分からないのか?」
前から一緒に出るという変な体でも、大が出るのか小が出るのかくらい分かるもんじゃないか?分かんなかったら困るだろ。
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分かって当然だと、まるで馬鹿にするように、ソフィスタは言った。…貴様は見分けがつくというのか?
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「今の年頃の者の大きさの基準など知らんのだ!基準が分からなければ、だ・大か小かなど…見分けがつくまい…」
「だから、大きさなんか聞いていないっつってんだろ!あたしが聞きたいのは大か小かで…」
そこまで言って、あたしは気付いた。
コイツ、「大」の意味と「小」の意味を、ホントに分かってんのか?ってことにな。
…大と小の表現を変えて聞いてみようか。でも言うの、イヤだなぁ…。
しかし、何だか噛み合っていない会話をし続けても時間の無駄だ。あたしは腹を括って、メシアに尋ねた。
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そこまで聞いて、私は気付いた。
大きさなんか聞いていない?では、ソフィスタは何を私に聞いていたのだ?
…もしかして、私は何か勘違いをしているのだろうか。
だとしたら、私はとんでもないことを答えていたような…。
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「…メシア。あたしがお前に聞いてるのは、その…に、尿のほうか、フンのほうかってことなんだけど…分かって答えてんのか?」
それを聞いた時、私は…おそらく、変な顔をしていたことだろう。私を見据えているソフィスタの表情も、怪訝そうであった。
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「へ…尿か、フンか?」
メシアの奴は、きょとんとしている。あ、やっぱり何か勘違いしていたみたいだな。
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「あー、あたしの言い方が悪かったよ。小は尿の、大はフンのほうの別の言い方だ。…こういうこと、あんまり説明したくないんだけどな…」
「………あ、そ・そういうことであったか!はは、ははははは…」
やっと理解したか。は〜…疲れるなーコイツは。それにしても、何かわざとらしい笑い方だな。誤魔化し笑いっつーか、照れているような…そんな感じだ。
…まてよ?勘違いしてたってことは…。
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気まずすぎて、私は笑うしかなかった。わ・私としたことが…なんたる失態!
勘違いして答えていたということは、人間の男の生殖器が二つあるというのも、私の勘違いになるのだろうか。
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「じゃあ、別に出てくる所が同じってわけじゃないんだな。両方とも前から出てくるってわけでもないんだろ」
「でっ…あ・当たり前ではないか!ちゃんと前と後ろに分かれて出ておるわ!!」
出す所は人間と同じってことか。見た感じ、体の構造が人間と同じなので、そのへんも人間と同じようになっているんだろう。
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ソフィスタも、私の解答を変なふうに捉えていたらしい。となると、私が生殖器のことだと思って解答していたことに、彼女は気付いていないのだろうか。
できれば、気付かないでいてもらいたい。
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「…あ、でも、祖先は分かれていたとか、言ってたよな。それって、どういうこと?」
「えっ、そそそそんなこと話していたかな」
この質問に、メシアは大袈裟に動揺した。何だ?何か気まずいことでもあんのか?
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よ・よし、気付いていないようであるな!だが、これ以上この話を続けていると、勘付かれる恐れがある。何とか話を逸らすなりして…。
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「話してたよ。…お前、一体何と勘違いしていたんだ?分かれてたとか、比べたとか…」
「うお――――っっ!!そう、小のほうだ!小のほうが出そうなのだ!だから、早く、そのトイレとかいうものがある場所へ案内してくれー!!」
「わ、分かったよ!分かったから騒ぐな!近所に聞こえるだろうが!」
な〜んか、わざとらしいな。でも大声でわめかれても困るし、トイレは早く済ますに越したことはないし…案内してやるか。
追求しようと思えば、後でも追求できるけど…なんとなく追求したくない気がするな。やめておこうか…。
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くうぅっ、我ながらなんと情けない…。だが、私があんな勘違いをしていたと知られることは恥ずかしいし、何よりまたソフィスタに殴られそうな気がするのだ。
頼むから、もう追求してこないでくれよ。私も明日になったら、今のことは忘れていたいのだ…。
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(終わり)
・あとがき
美女だって美男だってロリだってショタだって、出るモンは出るんです。
出ないと糞詰まりになるんです。
美しさを保つには、適度な食事と共に、適度な排泄も必要なのです。
出して出して美しくなりましょう。
そんなわけで、メシアにトイレの使い方を教える話を考えていたら浮かんだコントでした。
とりあえず、このお話の世界の住民達は、基本的に出しています。どんな美女でも出しています。
あ、でも美女、登場していないか。美男も。
…一応、ソフィスタもメシアも元は良いってことにしているんですけどね…でも元だけです。
こんなアホくて下品なコントですが、今後掲載するかもしれない本編の重要な部分に触れている節もあります。
…探してみますか?
…イヤですよね…。
2007.9.2 umiushi
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