悪魔のことわざ(畑田国男)



うっかり柳田国男と間違えて、変な本書いてるなあと思って買ったのは内緒だ。
皮肉の利いた1コマ漫画に文章がつくという構成で、中身はあれだ、ビアスの「悪魔の辞典」ふう(多少ダジャレ寄りだが)。ナンセンスって言葉懐かしい。

今は出せないだろう(単行本は1982年)って表現がポンポン出てきて面白い。
大丈夫そうな奴を引用させてもらおう。



『呉越同舟』

 部屋で飼われていた犬と猿がヘビースモーカーのご主人様にくいついた。
「何をするんだ、コノー!」
「ぼくら二匹は嫌煙の仲」



『籠鳥雲を恋う』(身を束縛されているものが自由にあこがれること)

 十字軍の遠征から五年振りに戻ってきた一人の騎士、最愛の妻をひしと抱きしめて、
「すまん。私は取り返しのつかないことをしてしまった。君の貞操帯の鍵をなくしてしまったのだ」
「ご安心なさい。そんなこともあろうかと、あらかじめ合鍵をたくさん作らせておきました」
「うん、さすがは賢夫人」



『来年のことを言えば鬼が笑う』

 頭の毛が蛇でできているメデューサが、日本の鬼と恋をした。メデューサ十八歳の春、番茶も出花の頃である。
 恋というのは不思議なもの。普通メデューサの恐ろしい顔を見た者はすぐ石になってしまうのだが、この鬼の場合、歯にたまっていたカスが歯石になる程度で済んだらしい。
 夏、二人は正式に結婚し、エーゲ海の見える丘の家に新居を構えた。新妻は頭の蛇を振り乱しながら夫のために働いたが、洗濯だけはどうしても鬼のいぬ間にしかやらなかった。
 秋、メデューサに妊娠の兆し。
 新妻は来年の出産予定日を心待ちにしていたが、そのことを話しても夫は笑うばかりである。
 それにしても、どんな子供が生まれるのだろう。
 鬼が出るか、蛇が出るか。




お見事。


 

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