Aug 13, 2015

ネット民俗学 - 「由美 逃げて」の解釈



ネットには何度も改変されながら拡散されている話がいくつもあるが、ここではいわゆる「由美 逃げて」のテキストを取り上げてみようと思う。
まずはテキストを眺めてみよう。


//2007-07-21、おそらくはもっと前からあると思われるが、確認できた日付を提示しておく
学校から帰って台所で麦茶を飲んでいると
床下の収納スヘ゜ースに死んだお母さんが押し込められているのに気がついた

隣の部屋からお父さんが出てきた
「由美?、お母さんは他に好きな人がいたんだ、お前のことも捨てて
出て行こうとしていたんだ、だからけんかになってさっき殺してしまった」
と泣き出した

私はお父さんを警察に突き出すつもりはない
このまま二人で暮らしていこうと思った

着替えのため自分の部屋に行くとメモ帳の切れ端が落ちていた
「由美、?逃げて お父さんは 狂っている」


あなたなら、お父さんと、お母さん、どちらを信じますか?
//

ほん怖、意味怖などのジャンルに時々顔を出すテキストである。
解釈がついている場合、だいたい
「ナポリタン説」(=意味がありそうな要素が並べられているだけで、明確な答えはない)
「由美の二重人格説」
があげられているが、決着はついていないようだ。
このサイトなりに答えを探してみようと思う。


考察スレでは既に何度もあげられているが、原型は御茶漬海苔氏の漫画「メモ」という作品であることがはっきりしている。
1988年頃に月刊ハロウィンに発表され、「惨劇館」としてコミックス化されている。漫画文庫化や電子コミック化もされているので現在でも読むことが可能だ。
中身はどちらかといえばサイコホラーで、最後に謎を投げかけるリドルストーリーの体裁をとっている。
とはいうものの漫画では、父親の行動に不自然な部分が多く、純粋に謎を提示しているとは言い難い。

Image_etc/tomomi.jpg


それを受けて書かれたと思われるものが存在する。

//2006-05-20
123 俺1 sage 2006/05/20(土) 15:10:24 ID:Ump+VC7V0
ある夜、ふと目が覚めました。
お れは、寝付きがいいので夜中に目が覚めることはめったに無いのですが
その日は熱帯夜だったので寝汗だらけで目覚めました。

当然家族は寝てるので、夜はいつも忍び足で皆を起こさないようにしていました。
俺は一階のトイレに行き用を足そうとしたのですが、
何か物音がきこえます。和室の明かりが点いてる。

おかしいと思い、ふすまを少し開きました。俺は恐ろしくて、固まりました…
父が、母の首を絞めているのが見えました。。。
状況が全然読み込めない。
母が大人しくなると、父は押し入れに隠しました。
そこまで見るとこれは現実なんだと言うことに気付いておれは足音を立てずに
急いで部屋に戻りました。
ベットに入り、おれはガクガク震えていました。

俺は全く眠れず、朝になりました。
自室から出ると、朝食の臭いがする。もしかしたら、あれは幻覚ではないのか?
キッチ ンに行くと父が、トーストを焼いている。
「…母さんは?」
「ああ、今日は仕事でしばらく出張になるそうなんだ。」
「…そ…そう、、」
やっぱり昨日のは現実なのか?!内心ぐちゃぐちゃ になりながらも
反射的に平静を装っていました。父は普段通りの優しい顔をしています。
「お父さんもうすぐ会社に出るけど、駅まで一緒に行かないか?」
でもその日は、俺はちょうど夏休みに入る日でした。
「言ってなかったっけ、俺今日から夏休みなんだ、、」
父の顔が一瞬曇ったように見えました。
「そう…」
俺は父を見送ると、和室に向かいました。
昨日のは現実だったのか?俺の妄想なのか、確かめる為に…

ふすまを開けると、昨日殺されたはず の母はいませんでした。
おれは凄くほっとしてその場にへたりこんでしまいました。
「何してるんだ?」
「うああああっ!」
後ろに父が居ました。
俺は凄い表情をしてただろうと思います。「け 、会社は、、?」
「やっぱり父さん、今日は会社を休むよ。」
ふと見ると、父は金づちやのこぎりの入った大具道具を持っています。
「そ、それは、、?」
「ああ、たまには日曜大工でもしようと思ってな」
淡々とした口調で父は言います。
母は居なかった。でも父はの こぎりを持ってきた。
俺は落ち着いて考えてみようと思い、キッチンで水を飲みました。

水を飲んだ後、なにか臭いがすることに気付きました。
ハエが飛んでいます、床下収納に向かって。

床下を開けると、母が居ました。小さく体を折り畳んで。
おれは状況を飲み込めないまま、泣いていました。
「仕方なかったんだ…」すぐそばに父がいました。
「なんで、、」
「母さんは、お前と父さんを捨てて、他の男と出ていこうとしたんだ…
借金までつくって…その上、父さんを殺そうとしたんだ…」
俺は返事ができませんでした。昨日まで平穏だったこの家がもう
自分の家だとは思えなくなってきました。
「父さん、片付けるから」そう言って父はのこぎりを持ちました。
俺は見ていられなく、自室に入り ました。

どうしたらいいのか全くわからない。
警察に電話するべきだろうか、父を擁護するべきだろうか
いろんなことがぐちゃぐちゃになって思考ができなくなりました。

何かがベットの下に何か落ちていました。
メモのようでした。
おそるおそる中を見ると、なぐり書きの字でこう書いてありました。


「●●(俺の名前)はやくにげて。パパはくるってる。ママ」


その後、父は母と一緒にいなくなってしまいました。
以上です。では
//

ストーリーは原作の漫画をよくなぞっている。
・導入は夜中に主人公が目覚めるところから
・殺された母親が押入れに入れられるのを目撃
・主人公が押入れを調べるが死体はなく、ハエによって床下収納に母親の死体を発見
・自室で母親のメモを見つける
しかし、最後の謎かけをすっぱりと切ることによってシンプルなホラーとして提示したのである。

これが二種類に分岐する。
A、母親の幽霊を登場させ、怪談として処理する。
B、切り捨てられた謎の部分を復活させ、強化する。


Aの話がこちら

//年月不明 主人公の名が真美、里香など数種のバリエーションがある。タイトルも「母の願い」となっているものもある。
母の警告

私が高校に入学してすぐ、母親が失踪しました。
父が言うには、母にはもう数年も前から外に恋人がいたそうです。
「アイツは父さんとお前を捨てたんだ」
そう言ってうなだれる父の姿を見て、これからは私が母親の分まで父を大切にしようと決心しました。

しかし、それから家では、奇妙な事が続きました。
家全体が何となく、ゾワッと総毛立つような雰囲気に包まれ、確かに閉めておいたドアが開いていたり、棚の上のものが落ちていたりするのです。
そこで私は、母はもう死んでいるのでは?」と思ったのです。

玄関に置いたままにしてある母の靴を調べ、私の疑惑は確信になりました。
もし母が出ていったとしたら、靴が一足、足りなくてはなりません。
靴は、全部ありました。
という事は、父がこの家の中で母を殺した事になります。
(何で?どうして?)父を問い詰めたい衝動にかられましたが、やめました。
母を亡くして、父まで警察に捕まってしまったら、私は一人ぼっちになります。
父は、母を愛していました。あんなに愛してくれていた父を裏切ったのなら殺されたとしても、母の自業自得のように思えたのです。
(気付かなかったふりをしていよう)そう決心しました。

しかし、奇妙な現象は続いていました。ある日、私が寝ていると、ピト・・ピト・・と誰かが家を歩き回る音で眼が覚めました。父の足音ではありません。
そして、ピト・・ピト・・という足音がだんだん近付いてくるのです。
「来ないでくれ、来ないでくれ」
そう念じながら蒲団に潜っていると、その足音は私の部屋の中にまで入ってきました。
生ぬるい呼吸が頬にあたりました。
薄目を開けると凄い形相の母が、私を覗き込んでいました。
そして、耳元で
「出・・・て行・・・け・・・」
そう言ったのです。

(こんな家にはいられない)
そう思った私ですが、引っ越そうにも理由を父に言うことが出来ずに悩んでいました。
不思議な事ですが、霊を見るのは私だけで、父は何も感じていないようなのです。
母が居なくなってからというもの、私の面倒を見る為に在宅の仕事に切り替え、家事をしてくれる父に
「父さんが、殺したんでしょう?」とは聞けなかったのです。
そこで私は何を見ても見ないふりをして、日々を過ごしていました。

あるときコタツに入ると、「ガリッ」という音がして、足の小指に激痛が走りました。
何事かと思ってコタツ布団をめくると、そこに母が居ました。
コタツの中で、母が、横になっていました。
台所で料理をしていた父が
「どうした?」
と声をかけてきましたが、私は
「何でもない。宿題があったの思い出した」
と言って誤魔化しました。
「もうすぐ出来るから、居間でやるといいよ」
そういう父の言葉に促され、鞄を開けました。
その時初めて、鞄の底に四つ折になった便箋が入っている事に気付いたのです。

そこには、母の字でこう書かれていたのです。
「真美、逃げて、父さんは狂ってる」
いままで母は、私を逃がそうとしていたのでした。
//

Bの路線はいうまでもなく、最初に紹介したテキストである。
台詞の中に「?」がないバージョンもあるが、どちらが先かはいまのところ不明。
ここで重要な点は、普通の「メモ」であったものが「メモの切れ端」に変わっていることだろう。

この改変はつまり、「父親か母親か」という提示する謎が弱いため(「母親が悪い」といっても実際に父親が母親を殺しているわけだから)、「じつは由美っていう線もあるんだよ」という選択肢を増やし、リドルストーリーとして復活させたかった故ではないか。



結論:この「由美 逃げて」のテキストの答えとしては、「イカレてるのは父親、もしくは由美のどちらとも取れるリドルストーリー」というのが妥当であろう。



追記:このエントリの論旨は「ネット上の二次、三次の創作に対して民俗学的なアプローチしたら面白いんじゃね?」ということなんだが、コメントの人のテキスト解釈が面白かったのでリンク。内容から推測して同じ人だと思う。
Googleドキュメント:「由美、?逃げて お父さんは 狂っている」

追記(2023/04/20):御茶漬海苔氏の漫画、惨劇館はスキマにて無料で読めます。4巻に「メモ」が入ってます。
 



タグ{雑文::テキスト解釈}

 
エントリを編集・・・

wikieditish メッセージ: Ready to edit this entry.
















A quick preview will be rendered here when you click "Preview" button.