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ありのままのメシア 第十三話


   ・第三章 獅子の痣

 マリアがメシアを浜辺で見つけたのは、空が明るくなり始めた早朝だった。
 その頃のマリアは、もう寝たきりになってしまうのではないかと周囲から思われていたほど体調が悪かった。それがなぜ、その日に限って空気の冷たい早朝に外に出る気になったのか、なぜ自宅からだいぶ距離のある浜辺まで歩いて行けるほど体調が良くなっていたのか、マリア自身も分からないと話していた。
 トルシエラ大陸で暮らしていた頃、マリアには魔法力とは違う不思議な力があると感じさせられることが度々あった。
 だがラゼアンで再会したマリアは、その不思議な力を生きる気力と共に失ってしまったかのように見えた。
 メシアを見つけた日、きっとマリアは、その不思議な力を取り戻していたのだ。そしてメシアのもとへと導かれ、彼に会うことで生きる気力も取り戻したのだ。
 寝室の窓辺に立ち、カーテンの隙間から月を覗いていたレジーは、その頃のマリアの明るい笑顔を思い浮かべる。
 マリアが持っていた力、マリアの生きる気力、そしてマリアの笑顔。失われていたそれらを蘇らせたのは、間違い無くメシアの存在である。そう信じることができるだけの根拠が、レジーにはあった。
「レジーさん、いますか?」
 ドアがノックされる音とソフィスタの声で、物思いに耽っていたレジーは現実に引き戻された。
 思っていたより早く、メシアとソフィスタは戻ってきたようだ。玄関へ向かい、ドアを開き、レジーは二人の姿を確認する。
 ソフィスタは無表情のように見えるが、メシアは明らかに落ち込んだ顔をしている。
「メシア…くん。大丈夫かい?」
 レジーに声をかけられたメシアは、はっとして「大丈夫だ」と答え、笑顔を作ろうと口の端を吊り上げる。
「今日はレジーの家に泊めてくれるそうだな。ありがとう」
 気丈に振る舞おうとするメシアの様子が辛くて、レジーは目の奥が熱くなる。だが、こちらが涙を見せるわけにはいかない。
「…食事と寝室の用意は、妻と娘に頼んである。荷物は既に馬車に積ませてもらったよ。さあ、行こう」
 レジーも外に出て玄関の鍵を閉め、メシアとソフィスタを連れて歩き始めた。馬車はソフィスタが馬の手綱を引いて移動させている。誰も馭者台にすら乗ろうとしなかった。
「ところで、巡回の自警隊員には会っていないかね?この町の者ではない君たちが、夜にここいらを歩いていると、声を掛けてくるはずだ」
 マリアの家の敷地を出たところで、レジーは後ろを歩く二人を振り返り、そう尋ねた。ソフィスタの肩に乗っているセタが三人の足元を照らしているが、アーネスから来る者が見慣れないマジックアイテムを持っていることは珍しくないので、セタとルコスについても、そういったマジックアイテムの類だろうと、レジーは思い込んでいた。
「いいえ、会いませんでした」
 レジーの問いには、ソフィスタが答える。メシアは俯き黙っている。
「そうか。…いや、以前のようなことが無いよう、隊員たちには注意してあるが、少し心配だったのでね。…メシア君、あの時は本当にすまなかった」
 レジーに謝られ、メシアは首を横に振った。
「自警隊の者は、マリアさんを助けようとしたのだ。それに私も、ああなることは分かっておった…」
 メシアの声は、まるで元気が無い。だがソフィスタに「ここの自警隊と、何かあったのか?」と尋ねられると顔を上げ、心なしか先程よりは明るい声で答えた。
「うむ。少しの間であったが、自警隊に捕われてしまったのだ」
「…この町でも自警隊とモメたのかよ…」
 ソフィスタはため息をつく。人間の社会を知らないメシアは、やはりアーネスでも自警隊と問題を起こしたようで、レジーはソフィスタの苦労を察する。
「マリアさんを助けるために、他に方法が思い浮かばなかったのだ」
「助けるため?」
「うむ。…マリアさんの家で目を覚まし、彼女の話を聞いていた…というところまでは、お前に話したな。その続きになるのだが…」
 メシアがソフィスタに、当時の出来事を語り始めた。
 どうやらメシアは、ソフィスタと話すことで、急に知らされたマリアの死のショックが紛れるようだ。
 口が少々悪く、人を寄せ付けない雰囲気のある少女だと思ったが、メシアを気にかけ、メシアもソフィスタに心を許し、頼っている節があるようだ。
 その様子に穏やかな気持ちになったレジーは、二人の会話の邪魔をしないよう、前を向いて黙々と歩いた。

 *

 マリアの話の内容は、他愛の無い世間話のようなものであったが、ここが海に面した人間の町であるという情報は得られた。
 ここからアーネスまでの距離や地形など、聞きたいことはあるが、声が出せないメシアには、頷いたり手を振るなどしての簡単な意思表示しかできず、またメシアが使う文字は人間に知られてはいけないと故郷で注意されているので、ほぼ一方的に喋るマリアの話を聞き続けることしかできなかった。
 最近の天気。得意料理の自慢話。レジーという名の友人がメシアを運ぶのを手伝ってくれたことと、彼の子供たちのこと。船着き場にいる野良猫のこと。
 他愛の無い世間話とは言え、人間の世間を全く知らないメシアにとっては、どれも新鮮で、ためになるものもあった。世間を知らなさすぎて理解できないものもあったが。
「それでねー、そのロールキャベツが美味しかったの!どう味付けすれば、あんなに美味しく作れるのかしら。見た目もキレイだったし…。あ、そうそう、その子がね、私が編み物が得意なことを知っていて、自分も何か編んでみたいって言うから、この家に招いて…」
 こんな具合に、メシアと共にベッドに座ってマリアは話し続け、かれこれ二時間が経過していた。
 …よく喋る女だ。故郷の女たちも、お喋りは好きなようだが、よく話すことが尽きないものだな。
 マリアの話を興味深く聞いていたメシアだが、そろそろ疲れた気分になってきた。話し相手がいなくて寂しいと言っていたが、よほど長い期間、話し相手がいなかったのだろうか。
 だが、他の人間と交流する機会が全く無いわけではなく、友人の家に招かれて夕食をごちそうになったことなどを、楽しそうに話していた。なのに話し相手がいなかったとは、意味が分からない。
 そんなことを考え始めた時、マリアの話をメシアの腹の虫が遮った。マリアは「あらっ」と笑って話を中断する。
「やだ。私ったら、話すのに夢中になっちゃって…気が回らなくてごめんなさい。お腹が減ったのね。…そういえば、私も朝食を取るの忘れていたわ」
 そう言って、マリアは立ち上がる。
「でも、喉の具合が悪いから…おかゆなら食べられるかしら。とにかく、何か食べやすそうなものを作ってくるから、ちょっと待っていてね。向こうにいるから、何かあったら呼んで…あ、声がでないんだったわね。手を叩いて音で呼んでくれればいいわ。そしたら戻ってくるからね」
 マリアはメシアにそう伝えると、小走りで部屋を出て行った。
 …せっかちな人間だ。確かに腹は減っているようだが、何かを食べたいとは言っていない…いや、今は声が出せないのであった。
 部屋の中は静まり返り、外から鳥の鳴き声が聞こえる。なんとなく視線を投げた窓からは、青く澄み渡った空が覗いていた。
 …それにしても、あの人間は、本当に私を警戒していないのだな。
 メシアに自然に触れ、自然に話しかけ、笑顔を見せる様子は、警戒しているどころか、まるで昔からの友人や家族のように接してくれていると、メシアは感じていた。
 …家族…そういえば、大人になったら教えてくれるという約束だった、私の両親のことを、聞き忘れてしまった。
 メシアが赤ん坊の頃に亡くなったという、メシアの両親。名前は分からず、育ての親ゼフからは「大きくなったら教えてやる」と言われていた。
 成人の儀を終えたらゼフに聞こうと考えていたことを、メシアは今になって思い出す。
 …私の母も、まだ言葉を解さない赤ん坊だった私に、あんなふうに話しかけていたのだろうか。
 メシアは、記憶に無い母の姿を思い浮かべようとしたが、先程まで傍にいたせいか、マリアの姿を思い浮かべてしまった。
 二時間にも及んだマリアの話の中には、彼女の年齢を推測できるものもあり、だいたい三十歳くらいだとメシアは考えていた。メシアの両親も、存命ならマリアと同じくらいの年齢になっていたかもしれない。マリアの姿を母親の代わりに思い浮かべてしまったのは、そのためだろうか。
 …母…?そういえば、あの人間は一人で暮らしていると話しておったが、夫や子供はいないのだろうか。
 故郷ルクロスでは、十八歳の誕生日を迎えた者は、早くて一週間以内、遅くても二年以内には結婚をする。ルクロスは小さな村で、ネスタジェセルの数も少ないので、必然的に結婚相手が絞られるからである。
 許嫁が決まっていたメシアは、結婚とは成人してすぐにするものだと思い込んでおり、それは人間も同じなのだろうと、自然と考えていた。
 また、離婚というものの概念も無いため、マリアの子供は既に親元を離れ、夫は訳あって別の場所で暮らしているが、夫婦という関係は続いているのだろうと、メシアはまず考えた。
 …だが、そういえば…彼女は夫や子供については、何も話さなかった…。
 マリアは、近所の子供や猫のことを、特に楽しそうに話していた。どうやら彼女は、子供と猫が好きなようだ。
 子供が好きならば、自分の子供のことを話したがってもいいはずだ。身内の話をできない理由でもあるのだろうか。
 …あの人間、最初に私と目が合った時、悲しそうな顔をしておった。その後も時々、彼女の笑顔がどこか辛そうに見えた。それと彼女の家族が、何か関係しているのだろうか…。
 メシアが勝手にマリアのことをあれこれ考えても、想像の域を出ないし、声も出ないのでマリアに直接聞くこともできない。それに、もし家族のことを話せない事情が、マリアにとって辛いものだったらと思うと、声を出せても聞きにくい。
 だが、マリアが何か深い悲しみを胸に抱え込み、それを隠して明るく振る舞っているのではないかと思うと、メシアも辛く悲しい気持ちになる。
 …力になりたい…。あの人間の悲しみを取り除いてやりたい。心からの笑顔を見たい。それに、彼女の話を、もっと聞きたい…もっと一緒にいたい…。
 そんな思いがメシアの中に沸き上がり、心を埋め尽くした。意識せずにマリアが座っていたシーツに右手を置くと、そこに残された温もりが、手から頭の芯まで伝わったような気がした。
 …待て、私は何を考えているのだ?
 メシアは、はっとして右手をシーツから離し、頭を左右に振った。
 …私は神より承りし使命を果たすために、故郷を出たのだぞ!それなのに…!
 マリアには、助けてもらった恩がある。そんな彼女の力になってやりたいと願う気持ちは、正しいものだ。心からの笑顔を見たいと…誰かの幸せを願うことも、悪いことではない。
 問題は、その気持ちが果たすべき使命を忘れさせたこと。そして、マリアと一緒にいたいと願う気持ちが、マリアを元気づけるためだけではなく、それ以上にメシアの独りよがりな気持ちであったことだ。
 …私には使命があり、彼女にも人間の世界での生活がある。一時、話し相手になって寂しさを紛らしてやるだけならともかく、もっと一緒にいたいなどと望んではいかんのだ!!
 だが、一度気付いてしまった気持ちは、抑えつけようとすればするほど膨らみ溢れ、ならば使命を果たした後なら望んでもいいのではないかと、突破口を探し始める始末である。
 メシアはもう一度頭を振り、乱れた髪を掻き上げた。髪の根元は、まだ少し湿っている。
 …何なのだ、この気持ちは!…こんな気分になったのは、初めてだ…。
 しばらく俯いて悶々とした後、メシアは深く息を吐き出して立ち上がり、机に置かれた紅玉を手に取った。
 …駄目だ。この家には…あの人間の傍には、これ以上いられない。この気持ちがどのようなものであろうが、惑わされて余計な時間を費やしてはいけない。
 成人の儀の最中に現れた神の言葉を繰り返し思い出し、マリアのことや、彼女に対して芽生えた感情のことは極力考えないよう、メシアは努めた。
 …私には、果たすべき使命があるのだ!!
 紅玉と耳飾りを身に着け、襟飾りに手を伸ばした時、ガチャンという音が響いた。メシアは反射的に、ドアが開け放たれた出入り口へと顔を向ける。
 続けてドサッという音が聞こえた。
 …最初に聞こえた音は、陶器が割れる音に似ておった。あの人間が、食器でも割ってしまったのか?それにしては、あの人間の声が聞こえてこないのもおかしい…。
 考えながら耳を澄ましていたら、荒い息遣いが聞こえてきた。ひどく苦しそうなうめき声も混じっており、それは間違い無くマリアの声であった。
 メシアは迷わず部屋を飛び出した。廊下に出るとマリアの声を辿って走り、少し開いているドアのノブを掴むと、蝶番を壊さんばかりの勢いで開いた。
 マリアの姿は、すぐに発見できた。先ほどまでいた寝室の半分ほどの広さの部屋、奥にある炊事場の手前の床で、彼女は仰向けに倒れていた。傍には陶器の破片が散乱している。
「……っ!!」
 まだ声が出せない喉を思わず震わせ、メシアはマリアに駆け寄った。
 マリアは不規則に胸を上下させ、手足を跳ね上げるように震わせている。意識はあるのか無いのか、目を閉じて、ひたすら荒い呼吸を繰り返している。
 メシアは屈んでマリアの顔を覗き込んだ。汗でじっとりと湿った額に、前髪がへばりついている。
 見たところ、外傷は無さそうだが、倒れる際に頭を打った危険性は除外できず、不用意に動かせない。
 …いったい、この人間の身に何が起こっているのだ!?呼吸困難に陥っているようだが…どうすればいいのだ!
 こういった事態の対処法を全く知らないわけではないが、実際に対処した経験は無く、しかも相手は人間。勝手が違いすぎることは無いと思うが、メシアの力だけでマリアを助けられる自信も無かった。
 絶望感に襲われるが、それでも何もできなくなるわけにはいけないと、必死に冷静さを保ち、少しでも呼吸を楽にしてやろうとマリアのスカーフに手をかけた。
 緩く巻かれ、決して首を圧迫していなかったが、念のためにとスカーフを解くと、痩せ細った首が現れ、その喉の少し左あたりに、奇妙な形の痣のようなものが、うっすらと浮かんでいた。
 上下二つに分かれ、下は獅子の横顔のように見え、上は円に二本のツタが生えたような形をしている。どちらも自然にできたものとは思えず、入れ墨だろうかとメシアは思ったが、そんなことよりマリアを助けなければと、陶器の破片を素手で払ってマリアから遠ざけると、立ち上がって窓に駆け寄った。
 ガラス戸の向こうに庭が見える。
 …外に他の人間がいるはずだ!彼女と同じ種族に協力してもらったほうがいい!
 窓は閉まっていたが鍵は掛けられておらず、とりあえず押してみたら簡単に開いた。
 庭に出て、低い植木を飛び越えると、すぐに道行く人間を数人見つけられた。皆、メシアに背を向けて歩いているため、メシアの存在に気付いていない。
 メシアは、一番近くにいる人間に駆け寄り、肩を掴んで引いた。若い女性で、驚いて振り返った彼女は、メシアと目が合うなり「きゃあぁーっ!!」と耳をつんざく悲鳴を上げてメシアの手を振り払った。
 その声に気付いた他の通行人たちが、こちらへ顔を向け、そして目を見開いた。
「ひぃっ、化け物だー!!」
 誰かがそう叫び、メシアは己の過ちに気付いた。
 …そうだ。人間たちにとって、私は化け物なのだった…。
 メシアが引き止めた女性は、腰を抜かしてへたり込んでしまった。
「何の騒ぎだ!!」
 そこに、二人の男が駆け付けた。二人とも同じ服装で、武器らしき棒を握っている。
 彼らも、まずメシアの姿に驚いて立ち止まり、腰を抜かした女性の「助けて!」という声を聞いて、その場からメシアに棒を突き付けた。
「何者だ!!その女性に何をした!!」
 男たちは、じりじりとメシアに近付く。メシアもゆっくりと後退して人間の女性から離れた。
 もはや人間たちは、メシアを危険な存在と見なしたようだ。それでも、女性から離れたメシアに男たちが飛び掛かってこないのは、丸腰でローブ一着という格好が彼らの敵意を僅かながら緩めているからだった。
 …私は何もしていない!それより、この家にいる人間を助けてくれ!!
 メシアは、そう彼らに伝えようと口を動かし、喉を震わせたが、発せられた声は小さく掠れ、近くにいる女性の耳にすら届いていなかった。
 …こんな時に、まだ声を出せぬとは!
 メシアは自らの喉を掴み、恨めしそうな顔をした。その表情に気付いた人間たちは怯え、棒を構えた二人の男も、今にも飛び掛かってきそうな体勢を取った。
 それを見て、メシアは閃いた。
 …私を化け物だと思っているのなら…!
 メシアは男たちに背を向けて走り出した。男たちは、一人はへたり込んでいる女性に駆け寄り、もう一人は「おい待て!どこへ行く!」とメシアを追った。
 …そうだ、ついてこい!
 メシアは再び植木を飛び越え、マリアの家の敷地に入った。追ってきた男が「やめろ!そっちへ行くな!!」と慌てた声で叫んだが、メシアは全く気に留めず、マリアがいる部屋に窓から飛び込んだ。
 そして、まだ苦しそうに呼吸をしていたマリアの傍に立った時、その様子を窓の外から見た男が、怒りと恐怖が混じった悲鳴を上げた。
「マリア様!?やめろぉ!!そのお方に近付くなーっ!!!」
 男は窓から部屋の中へ転がるように飛び込み、着地で少しよろけたが、勢いに任せる形で体勢を立て直し、棒を振り上げてメシアに突進した。
 …ここで暴れるわけにはいかぬ…。
 必死の形相の男とは対照的に、メシアは落ち着いた顔で男を振り返った。そこに、男が棒を振り下ろす。
 予想はしていたが、金属製であった棒の一撃を額に受け、メシアはよろめいた。
 …神よ。一時でも使命を忘れた、その罰を、私はいくらでも受けましょう。
 さらに脇腹に蹴りを喰らい、背中を折って頭を下げる姿勢となったメシアの頭上から、再び棒が振り下ろされた。
 強い衝撃に襲われて倒れる直前、メシアはマリアの姿を視界に捉えた。
 …ただ…どうか、どうかこの人間だけは、お救い下さい。
 うつ伏せに倒れたメシアの両腕を、男が掴んだ。されるがままに背中で両腕を組まされ、手首が何か硬く冷たいもので繋がれた。
 全く抵抗を見せないメシアを、男はひとまず放ってマリアに駆け寄った。その様子はメシアからは見えなかったが、下手に動けば、マリアの救助を遅らせてしまう恐れがあるので、全く身動きを取らなかった。
 ただひたすらメシアはマリアの身を案じ、彼女の無事を祈った。


  (続く)


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