善を知れば、悪を知る。 善を知るには、悪を知らなければいけない。 良い行いというものが、どのようなものかを知れば、それとは逆の行いが悪に属していることに、自然と気付く。 正しい人間を目指しているのであれば、その目指すべき理想の人間像を思い描いていることだろう。 同時に、目指すべきではない、許せない悪の人間像も、思い描いているはずだ。 つまり、正しい人間を目指す者の心の中には、理想である正しい人間像と、それとは逆の悪の人間像が存在しているということだ。 この前置きが意味するものは何か。 それは、これから始まる物語の中で、いずれ明かされることだろう。 "第一章 発端" 破壊神ゾファーとの戦が終わり、平和を取り戻したルナの大地で、レオは一人旅を続けていた。 ある時、青き星へ戻ってしまったルーシアを追って旅をしているというヒイロとルビィに再会した。 レオはヒイロの手助けをするため、旅の仲間に加わった。残るかつての仲間、ロンファ、ジーン、レミーナの三人も、旅の途中で再会しては、やはりヒイロを助けるために仲間に加わった。 それから半年。やっと青き星への移動手段の一つであるアイテムを手に入れた。 『竜の遺跡』で手に入れた青い宝石、サファイアが、そうらしい。 その宝石の使い方など、詳しいことは後で調べるとして、今は旅に必要な食料や道具を揃えるため、一行は、商業の町ノートを訪れた。 全員揃って買い物をしていたはずが、いつの間にか、ヒイロとロンファの姿が消えており、彼らの行方に勘付いたレオは、ジーンとレミーナに荷物を託し、「ロンファたちを探してくるので、先にバルガンへ戻っておれ」と告げて、彼女たちと別れた。 しかし、ヒイロを心配したルビィだけ、レオについてきた。 レオは特にルビィを止めることもなく、当てのある場所へと向かった。 * 「ロンファ!」 「ヒイロ!」 扉を開くなり、レオとルビィは、それぞれが一番親しい者の名を呼んだ。 ノートの東側、酒場の入り口から真正面にあるカウンター席。そこにヒイロとロンファは座っていたため、すぐに見つけることができた。 ヒイロはカウンターに突っ伏しており、その左隣に座っているロンファは、左手に酒の入ったジョッキを持ち、右手でヒイロの背中を叩いていたが、レオとルビィの声に気付くと振り返り、二人に右手で手招きをした。 「ぃよ〜お!お前さんたちもこっち来て飲みゃ〜!」 ロンファの顔は赤く、呂律が回っていない。明らかに酒の入っているロンファの様子に、酒場に入る前から厳しい表情だったレオは、さらに眉を吊り上げた。 「ヒイロ!大丈夫!?」 レオの肩に座っていたルビィが、真っ先にヒイロのもとへと飛んだ。レオも、ずかずかと奥へ進む。 「ヒイロ、ヒイロったら!ちょっと、どうしちゃったの!?」 カウンターの上に乗り、ルビィはヒイロの頭を前足で押して、横を向かせた。 「…ヒイロ?もしもーし!寝ちゃってるの?」 ヒイロの顔はロンファより赤く、苦しそうに呻いているが、ルビィが耳元で騒いでも、目を閉じたままである。 彼の膝の上には荷物袋が置かれ、その程度の大きさと膨らみではあるが、ずっしりとヒイロの太腿を圧迫している。 「おう、ヒイロなら、一杯飲ませただけで、このザマだ。だらしないったらありゃしねぇ〜っとくらぁ!」 と、楽しそうに笑うロンファを、ルビィはギッと睨みつけた。その間、レオもロンファの隣まで来る。 「貴様!勝手に別行動を取った上に、ヒイロまで巻き込みおったのか!」 レオはロンファの腕を掴み、強引に立ち上がらせようとした。ロンファは何の抵抗もせずに腕を引かれるが、立ち上がろうともせず、椅子からずり落ち、床に尻餅をついた。 「こら、ロンファ!立て!」 「うるせ〜な〜…そう怒るなよぉ〜」 レオは何度もロンファの腕を引くが、泥酔しているロンファは、ちゃんと足を床に着いてくれない。 「ヒイロ!起きてってばー!」 ルビィのほうも、ヒイロの肩を揺さぶって呼びかけているが、目を覚ます気配は無い。 「まあまあ。あんたたち、それくらいにしといてやりなよ」 その様子を見かねたのか、ヒイロの右隣に座っていた若い女性が、レオとルビィに声をかけてきた。レオとルビイは、同時に手を止めて、その女性を見る。 ウェーブのかかった赤い髪に、濃い化粧。ラメの入った原色の服に、やたらと光を反射して自己主張する腕輪や指輪など、とにかく派手な女性で、香水の香りもきつい。 レオもルビィも、あまり良い印象を受けられなかった。 「さっきまで、その二人と話をしていたんだけど…世界を巡る大冒険をしているんだってね。それも、えらく危険な場所へ行くこともあるって言うじゃない。少しくらいは息抜きさせてやっても、バチは当たらないよ。許してあげたら?」 女性は椅子から立ち上がってレオに近づき、宥めるようにレオの肩を叩いた。香水の香りがさらに濃くなり、レオは眉間にシワを寄せたが、彼女は気付いていないようだ。 「こんなベロンベロンに酔っ払っている二人を引きずって帰るのも大変でしょ。二階のベッドで休ませてからにしてあげなよ。こーゆー酔っ払いのためにある部屋なんだから」 女性は、酒場の隅にある上り階段を指しながら、レオとルビィに言った。レオとルビィは顔を見合わせる。 「…ここで休ませてもらえるなら、そうしようよ。ヒイロ、苦しそうだもの」 ルビィの言葉に、レオも「そうであるな」と頷いた。ロンファだけなら引きずり帰ったところだが、無理にロンファに酒を飲まされたであろうヒイロまで引きずる気にはなれない。それなら、確かに二人とも休ませてから連れ帰ったほうがよさそうだ。 そう判断して、レオは掴んでいたロンファの腕を、自分の肩にまわし、彼の体を背中で担いだ。いつの間にか、ロンファは気持ち良さそうな顔で、いびきをかいている。 「ルビィ。私が二人を二階へ運ぶので、お前は先にバルガンへ戻るのだ。ジーンたちに、このことを伝えてくれ」 さらにヒイロの右腕を、彼の荷物ごと掴んだレオは、そうルビィに頼んだ。ルビィは「わかったわ」と返事をする。 「お兄さん、一人で男二人を担ぐ気?あたしも手伝うよ」 派手な女性は、「いや、私一人で大丈夫だ」と断ろうとしたレオを無視して、ヒイロの左腕を掴み、肩にまわした。レオは、それを女性の親切と受け取る。 「ああ、助かる。では、頼んだぞ、ルビィ」 レオは女性に手伝ってもらいながら、ヒイロとロンファを担いで階段へと向かった。 ルビィは心配そうにレオたちを見送っていたが、彼が会談を上り始めると、カウンターから飛び立ち、酒場を出た。 * 酒場の二階には、いくつかの部屋があり、その内の空いている部屋に、レオはヒイロとロンファを担ぎ込んだ。 木造のベッドが二つあるだけの、質素な部屋だ。窓から差し込む夕日の光が、部屋の中を赤く染めている。 レオは、ヒイロとロンファを、それぞれのベッドに横たわらせると、ふうっと一息ついた。 「ご苦労様。世話のかかる仲間がいると、大変ね」 ヒイロたちを運ぶ手伝いをしてくれた女性は、ロンファを寝かせたベッドの手前で、レオと一緒に並んで立つ。 レオは「まったくだ」と肩をすくめた。 「うふふ…でも、こんな仲間たちとなら、楽しく旅ができそうね。羨ましいな〜」 女性は腰を屈め、ロンファの顔を覗き込んだ。その拍子に、彼女の胸元のポケットから何かが零れ落ち、床の上でコツンと音を立てた。 ガラス製の、赤い小瓶だ。足元に転がってきたそれを、レオは拾う。 「おい、落としたぞ」 拾ったビンを渡そうと、女性に声をかける。 「あ、ありがとう。それ、あたしの香水ナの」 女性は背筋を伸ばして立ち、レオから香水ビンを受け取った。 「割れなくてよかった〜。この香水、お気に入りなのよ」 そう話しながら、女性は香水ビンの栓を抜いた。レオは、思わず女性から一歩離れる。 「なによ、香水が苦手なの?でもコレは、あたしが今つけている香水より香りがきつくないから、大丈夫よ」 女性はハンカチを取り出すと、香水ビンの中身を数滴、そこに垂らした。 「ほら、ちょっと嗅いでみてよ。いい香りがするのよ」 女性は、香水を染み込ませたハンカチを、レオの顔の前に突き出した。レオは、さらに一歩後ずさる。 「い・いや、遠慮させてもらう…」 「ね〜お願い〜。感想が聞きたいの〜」 断っても、女性はハンカチを引っ込めない。確かに、女性が今つけている香水のせいで、そのハンカチから香っているであろう香水の香りが、全く分からない。 レオは、仕方ないと諦めて、女性が手にしたままのハンカチに鼻を近づけ、香りを嗅ごうとした。 そこに、女性がハンカチでレオの鼻と口を覆い、ぐっと押し付けてきた。レオは、くぐもった声を上げる。 すぐに女性の腕を掴んで振り払い、押し付けられたハンカチも剥ぎ取った。 「何のつもりだ!ふざけるのはやめ……」 レオは女性を怒鳴りつけるが、突然の、しかも強烈な眠気に襲われ、言葉は途切れてしまった。 全身から力が抜けてゆき、手にしていたハンカチも、パサリと床に落ちる。 「うふふふ…ごめんね、お兄さん。これは香水じゃないの」 いたずらっぽく笑いながら、女性は香水ビンの栓を閉めた。 「うぅ…このっ……」 レオは、残った力を振り絞り、女性の胸倉を掴もうと、腕を伸ばした。しかし女性は、ひょいっと横に移動して、それをかわした。そのため、レオは腕を伸ばしたまま、前のめりに倒れそうになったが、その直前に、女性を振り返って体の向きを変えた。 だが、そこで力尽き、結局後ろ向きに倒れることとなった。 ゴンッ 鈍い音が響いた。 不運にも、倒れた先にはベッドの角。しかもシーツも何も掛かっていない剥き出し状態。そこに、レオは頭を強く打った後、うつ伏せになって床に転がった。 音に驚いていた女性は、レオが頭を打ったことに気付くと、今の衝撃で目を覚ますまいかと心配したが、レオに動く気配は全く無い。女性は、ホッと胸を撫で下ろした。 「ふう、びっくりしたぁ。…さぁて、今のうちにっと…」 そして、嬉しそうにヒイロの荷物袋に手をかけた。 * ノートの町の近くの岸に停泊しているバルガンに戻り、荷物を食堂のテーブルにまとめて置いた後、ジーンとレミーナは、適当な部屋でお喋りを始めた。 レオと一緒にヒイロとロンファを探しに行ったルビィは、一度はバルガンに戻り、レオたちが酒場にいることを伝えてくれたが、ヒイロを心配して町へと戻っていった。 ジーンとレミーナも一緒に行こうとしたが、ルビィは二人を気遣い、バルガンで休んでいてと言った。そして二人はお喋りを再開し、今に至る。 「それでさ〜、パンに塗るバターの量と、紅茶に入れる砂糖の量が半端じゃないの!これじゃ、いつまで経っても赤字から抜け出せやしないわ!ったく、ボーガンのヤツめー!」 お喋りと言うより、レミーナによるボーガンへの愚痴ばかりであった。ジーンはレミーナと向かい合ってベッドに座り、「ああ」「うん」「そうだねえ」などと適当な返事をしながら愚痴を聞き続けていた。 「しかもしかもさらに最悪なことがあって、こないだメリビアへ買い物に行った時、ボーガンも荷物持ちとして連れてったのよ。そんで、アルテナ神殿の近くを通ったら、たまたま結婚式をやっていて、ウェディングドレス姿の花嫁さんが見えたの。あたしが思わず、キレイね〜って言ったら、ボーガンの奴は何て言ったと思う!?」 同じくジーンと向かい合ってベッドに座っているレミーナは、ジーンが話をちゃんと聞いているかどうかもお構いなく、早口で話し続ける。 「あいつときたら、ムィ〜リアァすぁまにぃむぉ〜あぁ〜のようなドゥオォ〜レェスゥ〜がぬぃあ〜いすぉおうどぅえすぬぁ〜…なーんてぬかすのよ!あー気持ち悪っ!!」 レミーナの、わざとらしさ全開でボーガンの口調を真似をする様子に、ジーンはプッと吹いて笑ってしまう。 「そりゃ、お母様にキレイなドレスは似合うけど!でも、ボーガンがお母様にウェディングドレスを着せることは、絶っっっ対にありえないわ!あたしが許しはしないんだから!!」 そう叫び、レミーナは拳を突き上げた。ジーンはまだ笑っている。 しかし、急にレミーナの熱が冷め、はあっとため息をついて拳を下ろすと、ジーンも笑いを止めて「どうかしたの?」とレミーナに声をかけた。 「…でも、本当に素敵なドレスだったな〜。あたしも、あんなキレイなドレスを着てみたいな〜」 怒り心頭とばかりに騒いでいた様子とは打って変わって、レミーナは、いかにも夢見る少女というような、うっとしとした表情で、ジーンの頭の上を通り過ぎた先の壁を見つめている。 ジーンも「そうだねえ」と呟き、小さく笑った。 結婚式で、花嫁が着るドレス。女の子なら誰もが、それに憧れていることだろう。 「でもさ、いずれはラムス商店の若旦那に、ウェディングドレスを着せてもらう予定じゃなかったっけ?」 ジーンにそう言われて、レミーナはハッとしてジーンを見た。ジーンは、レミーナをからかっているつもりも無く、ただ優しい笑顔をレミーナに向けていた。 「それは、あたしがヴェーンを復興するより早く、ラムスがお店を復興させたらの話よ。賭けに負けたらの話」 レミーナは、メリビアにある老舗、一時は首が回らない状況にあったラムス商店の若旦那、ラムスと仲が良い。そして彼と、もし店がヴェーンより早く復興できたら、ラムスのお嫁さんになるという賭けをしている。 どちらが先に復興できるかは、まだ分からないが、ラムス商店は最近始めた新しい商売が世間に受けたこともあり、優勢である。 しかし、レミーナもまんざらではない様子。それを、ジーンは知っていた。 「そう言うジーンこそ、どうなの?」 今度はレミーナがジーンに尋ねた。 「ゾファーを倒して世界的に有名になった踊り子のジーンには、言い寄ってくる男も多いでしょ。素敵な人はいた?それとも、もう結婚の約束しちゃった?」 その問いに、ジーンは少し頬を赤らめた。レミーナは興味津々にジーンの答えを待っている。 レミーナの言う通り、ゾファーを倒した英雄の一人であるジーンは、拳法家としても踊り子としても世界的に有名になった。 以来、ヒイロたちと出会う前から評判が良かった踊りと、持ち前の美貌で、ジーンのファンは増え、多くの男性がジーンの虜となった。 中には、本当にプロポーズをしてきた男性も何人かいたが、ジーンは全て断った。素敵だなと思える男性もいるにはいたが、恋をするほど興味を持てる男性は現れていない。 だからジーンは、レミーナの質問に、こう答えた。 「まっさか!そんな人いないよ」 ジーンは笑いながら答えたが、レミーナは、つまらなさそうな顔で「そう…」と呟いた。 「でもさ、いい人が見つかったら、あたしに紹介してよね!結婚式にも招待してよ!思いっきりお祝いしちゃうから!」 しかし、すぐに明るい表情へと戻り、レミーナは身を乗り出して、ジーンの両手をガシッと握った。 「もちろんだとも!レミーナこそ、結婚式するなら、ちゃんとあたしを式に招待しとくれよ!」 ジーンもレミーナの手を握り返し、ニッコリと笑った。お互いの笑顔に満足し合うと、二人は手を放す。 「…ウェディングドレスか…」 ベッドに座り直しながら、ジーンはなんとなく呟いた。 今すぐ結婚する気は無いし、何より相手がいないし思い浮かびもしない。しかし、いつかはウェディングドレスを着たいという気持ちは、レミーナや世間の女の子たちと同様にある。 軽く目を閉じ、ウェディングドレスを着た自分の姿を想像してみる。 純白のドレスに、花の飾りがあしらわれたヴェール。柔らかい色の花々が束ねられたブーケを両手で持ち、うつむき加減に立っている、自分の姿。 傍らに立つのは愛する男性。ジーンの左手の薬指に指輪を通し、伴侶となることを彼は誓う。 やがて彼は、ジーンのヴェールに手を掛け、ゆっくりと捲り上げる。それと共に、ジーンも顔を上げ、彼を見つめて…… 「ジーン、レミーナ!大変大変大変なのー!!」 彼を見つめようとしたところで、部屋の外から聞こえてきたルビィの慌しい声に驚かされ、新郎の顔がハッキリと見える前に、想像はシャボン玉のようにパチンと消えてしまった。 レミーナもルビィの声に、何事かと立ち上がる。 ルビィが勢いよく部屋のドアを開け、飛び込んできた。 「ジーン、レミーナ!お願い、助けて!」 ルビィは、あたふたと部屋の中を飛びまわる。ジーンがベッドから立ち上がり、ルビィに両手を差し出すと、ルビィはちょこんとそこに乗った。 「一体、何があったんだい?落ち着いて話な」 「そっ、それがね、大変なことになってるの!酒場でね、ヒイロがっヒイロとロンファがっ!!」 「落ち着いて!何があったのか、ちゃんと話してくれないと、こっちだってどうすればいいか分からないわよ!酒場でヒイロとロンファがどうしたの!?」 涙目で取り乱すルビィに、只ならぬ予感がして、レミーナが強い口調でルビィに言った。 「だからね、酒場でヒイロとロンファが裸で寝てるの!!」 「ハアッ!?」 意外なルビィの答えに、ジーンとレミーナは裏返った声を上げた。 裸で寝ること自体は、そんな意外ではない。ジーンも裸で寝たことがあり、その際どい姿を勝手にブロマイドにされたこともある。 「べつに裸で寝ていたって、そんなに慌てることじゃないだろ。もしかしたら、暑いと思ってレオが脱がしたのかもしれないし」 しかしルビィはジーンに、違うと首を横に振ってみせる。 「そうじゃないの!ヒイロとロンファの服が、どこにも無いの!服だけじゃない!ヒイロの荷物もロンファの葉っぱも、みーんな無くなってるの!」 「ええっ!?」 ルビィが言いたいことに気付き、ジーンとレミーナは再び声を上げる。 「盗まれたってことかい?」 「そうよ!ヒイロたちが寝ている部屋の窓が割れていたから、そこから泥棒が入ったのかもしれない!」 「ち・ちょっと待ってよ!ヒイロが持っていた荷物って、中に白竜の翼も入っていたわよね!それに紋章や、手に入れたばかりのサファイアも!!」 ロンファが咥えている葉っぱはともかく、事態の大きさに気付いたレミーナは、両手を頬に添えて悲鳴のように高い声で喋る。 「だから、お願い!一緒に酒場へ来て!」 ルビィはジーンの胸にしがみつき、泣きながら訴える。ジーンはルビィ抱きかかえると、レミーナにこう言った。 「よし、!何でもいいから、ヒイロとロンファが着られる服を持っていこう!」 レミーナの「了解!」という返事も聞かずに、ジーンは部屋を飛び出した。レミーナも、その後に続いて部屋を出る。 …ったく!レオが二人を見ているんじゃなかったのか?何やってんだい、あの男は! そんなことを考えながら、ジーンはヒイロたちの服を探そうと、バルガン内で彼らが使っている部屋へと走った。 しかし、この時ジーンは、ルビィがレオについては何も話さなかったことに、気がついていなかった。 (第二章へ) |