ペットのオウム



 男の家に警官がやってきた。男は玄関先で何事かと聞いた。
「近隣の住民から、女性の悲鳴が聞こえたという通報がありまして。すみませんが、家の中を見せてもらえませんか」
「かまいませんよ」
 男は肩をすくめて警官を中に招き入れた。男は結婚しているはずだが、キッチンには洗い物がたまっていたし、脱ぎ散らした服があちこちに落ちていた。部屋の隅には鳥カゴがあり、ペットのオウムらしい鳥が一羽鎮座している。オウムは意外にもちゃんと世話をされているらしく、落ち着いた様子で羽をいじっていた。変にガランとしているなと思った警官は、部屋にテレビがないことに気づいた。
「テレビがないんですね。ラジオも?」
「ああ。やかましいのが嫌いなんで」
「特に何もないようです。なんで通報があったのかな?」
「こいつのせいだと思いますよ」
 男は軽く鳥カゴをこづいた。とたんに「きぇやぁーっ」とオウムは奇声を発した。かなり大きな声で、まるで女性の悲鳴のように聞こえる。
「なるほど……オウムのしわざだったわけですね」
「そういうことです」
 警官と男は笑った。そのあと、警官が訊ねる。
「ちょっと気になることがあるんですが」
「なんですか?」
「テレビもラジオもない部屋の中で、そのオウムは《《どうやって人間の悲鳴を憶えたんでしょうね》》? いかに利口なオウムといっても、一回や二回聞いただけでは声真似はできないでしょう。奥さんはどこです?」
 警官は銃を構えながら言った。
 その時、もう一回オウムが鳴いた。
「……たすけて……」

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